煎餅屋せんべいや)” の例文
ひやの牛乳を一合飮み、褞袍どてらの上にマントを羽織り、間借して居る森川町新坂上の煎餅屋せんべいやの屋根裏を出て、大學正門前から電車に乘つた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
さて、その次に来た弟子は日本橋馬喰町の裏町に玉村という餅菓子屋がありましたが、その直ぐ隣りの煎餅屋せんべいやせがれ長次郎という若者でした。
名物の煎餅屋せんべいやの娘はどうしたか知ら。一時跡方あとかたもなく消失きえうせてしまった二十歳時分はたちじぶんの記憶を呼び返そうと、自分はきょろきょろしながら歩く。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
向うの煎餅屋せんべいやの娘が、二つになる男の子を、お銀のところへ連れ込んで来て、不幸な自分の身のうえを話しながら、子供の顔を眺めて泣いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで煎餅屋せんべいやをしていたのであるが、あの夜の火で焼けだされた。そのとき妻の妹を死なせたそうであるが、その始末もせずに勘さんは下総しもうさ古河こがへとんでいった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
坂を下り切ったところに、お煎餅屋せんべいやがある。その店に二台ばかり、お菓子の自働じどう販売器があった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
引つくり返されて、煎餅屋せんべいやのお神さんブウブウ言ひ乍ら、半分くらゐ拾ひ込んだところへ俺が歸つたんだ。あんな粗相をするのは、この路地の中に一人も住んぢや居ないよ
トンツクと団扇太鼓うちわだいこが鳴りだしたのは、法華宗ほっけっしゅうにこって、かたときもそれを手ばなさないお煎餅屋せんべいやのおかみさんが、ここへもそれを持ってきて、やにわにたたきはじめたのだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まだ並んでいる家の中で、店を開けて商売をしているのは蕎麦屋そばやの蓮玉庵と煎餅屋せんべいやと、その先きのもう広小路の角に近い処の十三屋と云う櫛屋くしやとの外には無かった時代である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたしは茶屋と茶屋とのあいだにある煎餅屋せんべいやの前を通ると、ちょうど今日こんにちの運動場で売っているような辻占入りの八橋やつはしを籠に入れて、俳優の紋所もんどころを柿色や赤や青で染め出した紙につつんで
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
両国りょうごく広小路ひろこうじに沿うて石を敷いた小路には小間物屋袋物屋ふくろものや煎餅屋せんべいやなど種々しゅじゅなる小売店こうりみせの賑う有様、まさしく屋根のない勧工場かんこうばの廊下と見られる。
引っくり返されて、煎餅屋せんべいやのおかみさんブウブウ言いながら、半分くらい拾い込んだところへ俺が帰ったんだ。あんな粗相をするのは、この路地の中に一人も住んじゃいないよ
二月の中旬、圭一郎と千登世とは、それは思ひもそめぬ些細な突發的な出來事から、間借してゐる森川町新坂上の煎餅屋せんべいやの二階を、どうしても見棄てねばならぬ羽目に陷つた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「そのときあたしは八つで、深川の八幡前にある煎餅屋せんべいやへ子守りにいってました」とおえいは云った、「そして或るとき子守りをしながら、姉さんの奉公先へ訪ねていって、その話を聞いたんです」
その父親が死んだ折には差当さしあたり頼りのない母親は橋場の御新造の世話で今の煎餅屋せんべいやを出したような関係もあり
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「親分、赤い痣のある男が向柳原むこうやなぎわら煎餅屋せんべいやに居ますぜ」
其後そのご父親が死んだをりには差当さしあたり頼りのない母親は橋場はしば御新造ごしんぞの世話で今の煎餅屋せんべいやを出したやうな関係もあり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
商店の中で、シャツ、ヱプロンを吊した雑貨店、煎餅屋せんべいや、おもちゃ屋、下駄屋。その中でも殊にあかりのあかるいせいでもあるか、薬屋の店が幾軒もあるように思われた。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし口へ出していうほどの事でもないので、何か話題の変化をと望む矢先やさきへ、自然に思い出されたのは長告が子供の時分の遊び友達でおいとといった煎餅屋せんべいやの娘の事である。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし口へ出してふほどの事でもないので、なにか話題の変化をと望む矢先やさきへ、自然に思ひ出されたのは長吉ちやうきちが子供の時分じぶんの遊び友達でおいとつた煎餅屋せんべいやの娘の事である。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)