烙印やきいん)” の例文
「こら。おぬしたちは逃げる談合をしておるな。逃亡の企てをしたものには烙印やきいんをする。それがこの邸の掟じゃ。赤うなった鉄は熱いぞよ。」
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのたび権三は六波羅割符わりふをしめし、大蔵は、表に「二階堂」裏に「荷駄組」と烙印やきいんした手脂でひかッている分厚い鑑札かんさつを兵に見せて通って来たのだ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余もまた何人よりも一番深く居士を信頼していた。居士の言行は一に余の脳裏に烙印やきいんせられていて今もなお忘れようとしても忘れることは出来ぬのである。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私の過去の生活に關する話が、その人の口から洩れゝば、もう私は永久に惡い子供として烙印やきいんを押されることになるのだから。その人が今、そこにゐるのだ。
曝露ばくろがまともに彼等かれら眉間みけんたとき、彼等かれらすで徳義的とくぎてき痙攣けいれん苦痛くつうつてゐた。彼等かれら蒼白あをしろひたひ素直すなほまへして、其所そこほのお烙印やきいんけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼はこう云う点になると、実際どこまでも御目出度おめでたく出来上った人間の一人であった。しかしまたその御目出度さがあらゆる強者に特有な烙印やきいんである事も事実であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
した無残な烙印やきいんには、たしか索溝の形状かたちと、背馳はいちするものがあるように思われるんだが
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
すなわちキチガイの烙印やきいんを押し付けて差別待遇を与える事にきめているようである。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その時の感じはいまだにの上に、熱鉄の烙印やきいんを押したように残っています。
その竹筒の一端に「十八文」という烙印やきいんしてあったからです。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
逃亡を企てて捕えられたやっこに、父が手ずから烙印やきいんをするのをじっと見ていて、一言も物を言わずに、ふいと家を出て行くえが知れなくなった。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
曝露ばくろの日がまともに彼らの眉間みけんを射たとき、彼らはすでに徳義的に痙攣けいれんの苦痛を乗り切っていた。彼らは蒼白あおしろい額を素直に前に出して、そこにほのおに似た烙印やきいんを受けた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「でもその武士は、たもとの中から、南町奉行の烙印やきいんのある与力鑑札よりきかんさつを立派に示したのです」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「万事剖見を待つとしてだ。それにしても、屍光のような超自然現象を起しただけで飽き足らずに、その上降矢木の烙印やきいんを押すなんて……。僕には、この清浄な光がひどく淫虐的ザディスティッシュに思えてきたよ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「でもわたしがいなくなったら、あなたをひどい目に逢わせましょう」厨子王が心には烙印やきいんをせられた、恐ろしい夢が浮ぶ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
処女おとめのほこりに消えようもない烙印やきいんを与えられた傷手いたでと——それにとものうて起るさまざまな精神的また生理上の動揺というものは、そう三日や四日で、易々やすやすえるものではない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お延は囁やいた後で新九郎の頬へ烙印やきいんのような熱い唇をつけて素早く外へ姿を消した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みよし烙印やきいんもみえる。その出屋敷の水門から逃げのびた曲者を、きさまが水先して、これへつないだものにちがいあるまい。……また、ここから何処ぞへ、逃げ道の案内をして立ち帰って来たものだろう。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)