たぎ)” の例文
あらしを免れて港に入りし船のごとく、たぎつ早瀬の水が、わずかなる岩間のよどみに、余裕を示すがごとく、二人はここに一夕の余裕を得た。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それ等の文句を取って其儘そのまま詠んだというのでなく、巻向川(痛足あなし川)の、白くたぎ水泡みなわに観入して出来た表現なのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
中臣の遠祖が、あめノ二上に求めた天ノ八井やゐの水は、峰を流れ降つて、此岩にあたつてたぎち流れる川なのであらう。姫は瀬音のする方に向いてたなそこを合せた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
深みと 落ちたぎつ 清き河内に 朝去らず 霧立ち渡り 夕されば 雲居棚引き 雲居なす 心もぬに 立つ霧の 思ひ過さず 行く水の 音も清けく 万代に 言ひ続ぎ行かむ 河し絶えずは
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
靜息やすみなくたぎつ胸には
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たぎり落つ異郷の涙
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
中臣・藤原の遠祖が、天二上あめのふたかみに求めた天八井あめのやいの水を集めて、峰を流れ降り、岩にあたってみなぎたぎつ川なのであろう。瀬音のする方に向いて、姫は、たなそこを合せた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ことにいでて言はばゆゆしみ山川のたぎつ心をせかへたるかも」(巻十一・二四三二)の如き例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
豪雨がううだ……そのすさまじき豪雨の音、さうして有所あらゆる方面はうめんに落ちたぎつ水の音、只管ひたすら事なかれと祈る人の心を、有る限りの音聲を以て脅すかの如く、豪雨は夜を徹して鳴り通した。
水害雑録 (旧字旧仮名) / 伊藤左千夫(著)
たぎり落つ異郷の涙
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つた つたと来て、ふうとち止るけはい。耳をすますと、元のしずかな夜に、——たぎくだる谷のとよみ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一首の意は、いきおいよくたぎって流れて来た水が、一旦巌石に突当って、其処に淵をなしている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
物悲ものがなしく寂しくてたまらなくなった、二三日寝汗をかいたことを思い出し、人々の希望にそむくようになりゃしないかという懸念けねんが、むらむらと胸先へたぎりきて涙がぼろぼろと落ちた。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たぎり落つ愁の思
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つた/\と来て、ふうとち止るけはひ。耳をすますと、元の寂かな夜に、たぎち降る谷のとよみ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
豪雨だ……そのすさまじき豪雨の音、そうしてあらゆる方面に落ちたぎつ水の音、ひたすらことなかれと祈る人の心を、有る限りの音声おんせいをもっておびやかすかのごとく、豪雨は夜を徹して鳴り通した。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
山がひにをりをりしろくたぎちつつさびしき川がながれけるかな
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
谷川のたぎちの音が、段々高まって来る。二上山の二つの峰の間から、流れくだる水なのだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
みづたぎちけむ因縁よすがも知らずあしびきの山の奥より石原の見ゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
谷川のたぎちの音が、段々高まつて来る。二上山の二つの峰の間から流れ取る水なのだ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
この狭間はざまを強き水たぎち流れけむ石むらがりてよこたふ見れば
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)