溪間たにま)” の例文
新字:渓間
其外そのほかの百姓家しやうやとてもかぞえるばかり、ものあきないへじゆんじて幾軒いくけんもない寂寞せきばくたる溪間たにま! この溪間たにま雨雲あまぐもとざされてものこと/″\ひかりうしなふたとき光景くわうけい想像さう/″\たまへ。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
溪間たにまの温泉宿なので日がかげり易い。溪の風景は朝遅くまでは日影のなかに澄んでいる。やっと十時頃溪向こうの山にきとめられていた日光が閃々せんせんと私の窓をはじめる。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
蚊の蠅に代るころはひ、下なる溪間たにま恐らくはおのが葡萄を採りかつ耕す處に見る螢の如く 二八—三〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
姿ばかりは墨染にして、君が行末をけはしき山路に思ひくらべつ、溪間たにまの泉を閼伽桶あかをけに汲取りて立ち歸る瀧口入道、庵の中を見れば、維盛卿も重景も、何處に行きしか、影もなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
不愉快ふゆくわい人車じんしやられてびしい溪間たにまおくとゞけられることは、すこぶ苦痛くつうであつたが、今更いまさら引返ひきかへすこと出來できず、其日そのひ午後ごゝ時頃じごろ此宿このやどいた。突然とつぜんのことであるから宿やど主人あるじおどろかした。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)