満目まんもく)” の例文
此頃のくせで、起き出る頃は、いつ満目まんもくきり。雨だなと思うと、朝飯食ってしまう頃からからりとれて、申分なき秋暑しゅうしょになる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
終りには肩をすぼめて、恐る恐る歩行た。雨は満目まんもく樹梢じゅしょううごかして四方しほうより孤客こかくせまる。非人情がちと強過ぎたようだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本来醜美は自身の内に存するものにして、毫末ごうまつも他に関係あるべからず。いやしくも我が一身の内に美ならんか、身外しんがい満目まんもくの醜美は以て我が美を軽重けいちょうするに足らず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蹉跌さてつ彼において何かあらん、彼は蜻蜓州せいていしゅうの頭尾を踏み破りて、満目まんもく江山こうざんにその磊塊らいかいの気を養えり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
このきぬたの新村の初期には、野は満目まんもく麦生むぎふであり、空は未明から雲雀の音楽をもって覆われていた。
あしたに金光をちりばめし満目まんもくの雪、ゆうべには濁水じょくすいして河海かかいに落滅す。今宵こんしょう銀燭をつらねし栄耀えいようの花、暁には塵芥じんかいとなつて泥土にす。三界は波上のもん、一生は空裡くうりの虹とかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
北は冬にでもなれば、満目まんもく凡て雪に被われ、山も河も野も家も、凡て白一色に変ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
葉の落ちた闊葉樹かつようじゅはもちろんのこと、雪におおわれた針葉樹にも、緑の色は全然見られない。この一点の緑もない世界、満目まんもくただ灰色一色の世界では、食糧の不安感が、ひしひしと人の心に迫る。
干戈かんか満目まんもくこもごもふる
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二百十日の風と雨と煙りは満目まんもくの草をうずめ尽くして、一丁先はなびく姿さえ、判然はきと見えぬようになった。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あたかも我が国未曾有みぞうの家屋を新築するものにして、我輩もとより意見を同じうするのみならず、敢えて発起者中の一部分を以て自らる者なれども、満目まんもく焔々えんえんたる大火の消防にわしくして
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
満目まんもくあたかも造化の秘密に囲まれてただ人智の浅弱を嘆ずるのみなれども、いよ/\進んでいよ/\深きに達し、かつて底止する所を知らざるもまたれ人生の約束なれば、勇を鼓して知見の区域をひろ
人生の楽事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)