淡紅とき)” の例文
すると紅の暗さに、一抹いちまつの明るみが差したかのように、血の流れた下から、見るも鮮やかな淡紅とき色をしたものが現われたのである。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
白の洋装で髪をお垂下さげにし、丈の長い淡紅とき色のリボンをひらめかしながら力漕をつづけているのは、まごうかたなく彼の少女であッた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一体に白、水色、淡紅とき色などのかるい色のロオヴを着た女が多く、それ等を公園の木立こだちの下の人込の中で見るのは罌粟けしの花を散らした様である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
薄鼠の夏服に、ひどく尖った黄靴、淡紅とき色のワイシャツに、はでな絹のネクタイ、それからまるい、つばの狭い麦藁帽子をあみだにかぶっている。
なぐり合い (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
柳の影を素膚すはだまとうたのでは、よもあるまい。よく似た模様をすらすらと肩もすそへ、腰には、淡紅ときの伊達巻ばかり。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いて来た大きな犬のデカと小さなピンが、かえるを追ったり、何かフッ/\いだりして、面白そうに花の海をみ分けて、淡紅ときの中になかくぼい緑のすじをつける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
チチコフが感謝の言葉も知らず、ようやく口を開こうとした時、不意にマニーロフは毛皮外套の下から、筒のように巻いて、淡紅ときいろのリボンでしばった紙を取り出した。
樺太虎杖の花は内地で見るようなほのぼのとした淡紅ときいろを含めていないが、その緑がかった薄黄はかえっつつましくてあわれであった。それが雨と霧とに濡れしずくになっているのである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
空が次第に蒼味を増し、薔薇色ばらいろの光も射して来た。淡紅とき色は漸次だんだん色となり、緋色は忽ち黄金こがね色となり、四方あたり瞬く明かるむに連れて、朝もや分けて一つ一つ、山や林や高原が三人の前に現われ出た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
淡紅とき色の
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
緞帳の余映は、薄っすらと淡紅ときばみ、列柱を上の蛇腹から、撫で下ろすように染めて行くのだった。その幕間は二十分余りもあって、廊下は非常な混雑だった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
大通おほどほりから光を受ける三つの大きな窓には、淡紅とき色を上下うへしたに附けた薄緑の窻掛リドウを皆まで引絞らずに好い形に垂らし、硝子がらすすべ大形おほがたな花模様のレエスでおほはれて居るので
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
踏掛けて塗下駄に、模様の雪輪が冷くかかって、淡紅とき長襦袢ながじゅばんがはらりとこぼれる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下の室の窓から季節外れの淡紅とき色の穿いた十七八の娘が首を出して居たので「詩人はられるか」と問ふと「知りません、門番コンシエルジユにお聞きなさい」と甚だ素気すげない返事をする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
何の事はない、見た処、東京の低い空を、淡紅とき一面のしゃを張って、銀の霞に包んだようだ。聳立そびえたった、洋館、高い林、森なぞは、さながら、夕日のべにを巻いた白浪の上のいわの島と云ったかたちだ。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)