消魂けたたま)” の例文
こう云って要介が先に立ち、二三間歩みを運んだ時、消魂けたたましい叫声が邸内から聞こえ、突然横手の木戸が開き、人影が道へ躍り出た。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
見えない屋敷の方で、遠く消魂けたたましく私を呼ぶ乳母の声。私は急に泣出し、安に手を引かれて、やっとうちへ帰った事がある。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
雪を切り拓いた中央の小径こみちを、食事におくれたスポウツマンとスポウツウウマンとが、あとからあとからと消魂けたたましく笑いながら駈け上って来ていた。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
まるで、お姫様が毛虫を発見みつけたような消魂けたたましい叫び声が、奥のほうから聞えて来る。保利庄左衛門、箭作彦十郎、飯能主馬、春藤幾久馬等の声だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
時々咽喉のどでもしめられるように、消魂けたたましく唁々きゃんきゃんと啼き立てる其の声尻こわじりが、やがてかぼそく悲し気になって、滅入るように遠い遠い処へ消えて行く——かとすれば
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうして、無言のままに再びそこを出て、家に飼ってある雞籠とりかごのまわりをめぐってゆくかと思うと、籠のうちのにわとりが俄かに物におどろいたように消魂けたたましく叫んだ。
歳の暮に差し掛かっているので、町内々々でも火の用心をしていたことであろうが、四ツ時という頃おい、ジャン/\/\/\という消魂けたたましいこすり半鐘の音が起った。
消魂けたたましく叫んで、のめりそうになって走って行く老僕に眼もくれず、三人は家の周囲を駈けめぐったが、中へ踏み込むことは出来なかった。そのうちに、きいが消魂しく叫んだ。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
平和な夜霞よがすみにつつまれて、眠りに落ちていた村には、忽ち、消魂けたたましい夜鶏よどりの啼き声が起り、牛が鳴き、馬がいななき、老人としよりや子どもの泣きわめくのが、手にとるように聞えだした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雷門の処まで来ると、夕方の雑音に交って、消魂けたたましい夕刊売りの鈴の音が響いていた。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
殺されかけたのでなければ、夜中にそんな消魂けたたましい声を立てるわけがないんですよ。
見開いた眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そしてそれっきりで二人がうとうととしかかった時、絞め損った鶏を飛ばしたような消魂けたたましさで、引き裂かれるような悲鳴が、耳のつけ根で爆発した。同時に、若者と時計屋がはね起きた。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
それから何分か、何十分か……ホンノちょっとばかり三階の寝床の中でウトウトしたと思ううちに突然、下の二階あたりから消魂けたたましい物音が聞こえて来たので、玲子はフッと眼を見開いた。
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この時、玄関の呼鈴ベルが不意に消魂けたたましく鳴った。ルパンはそれを聞くと
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
不忍しのばずの池の溢れた水中をジャブジャブ漕いで、納涼博覧会などを見物し、折から号外号外の声消魂けたたましく、今にも東都全市街水中に葬られるかのように人をおどかす号外を見ながら、午前十一時五十五分
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
消魂けたたましい、なにごとです」
庭の方から、消魂けたたましい声。
躑躅つつじヶ崎の信玄の館が、真北にあたって聳えていた。その方角から一瞬間、消魂けたたましい物音の聞こえたのは、癩人が寄せて行ったからであろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
消魂けたたましい野犬の吠え声起る。歩哨一人、鹿の皮を被った合爾合カルカ姫の前に立ち、二名の兵士、姫の左右から抜身の槍を突きつけて、下手からはいって来る。
とザッと水をける時、何処の部屋から仕掛けたベルだか、帳場で気短に消魂けたたましくチリリリリリンと鳴る。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
不意に消魂けたたましい女の叫びが、如意輪寺裏の幽寂ゆうじゃくの梅林につんざいた。——もう散り際にあるもろ梅花うめは、それにおどろいたかのようにふんぷんと飛片ひへんを舞わせて、かぐわしい夕闇に白毫はくごうの光を交錯こうさくさせた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず凄じいときの声が起こり、つづいて太刀音が消魂けたたましく起こり、一ツ橋勢の一角が、見る見る中に崩されたのである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三次たちの気勢けはいを聞きつけて起きて来た長屋の者が消魂けたたましく戸を叩いたので、七兵衛も寝巻姿で飛出して来たが井戸端の洗場に横たわっている娘の死骸を見ると
と、消魂けたたましい叫びが一声、そとから聞えた。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
室の片隅の水瓶の側の厚い毛皮の上に青年は坐っているらしい。彼等に属する家畜の群が天幕の外の檻の中で不意に消魂けたたましく鳴き出したので、老人夫婦は様子を見るため天幕から外へ出て行った。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
廊下を地下室へ走って行く消魂けたたましい万兵衛の足音が、ちょっとの間部屋へ響いて来たが、それが次第に遠ざかり、やがてすっかり消えた時には、部屋の中には城主の歩く重々しい足の音ばかりが
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)