浅茅あさぢ)” の例文
「でもまるで浅茅あさぢ宿やどよ。でなけや、こほろぎの家よ。あの時、畳の上一面にぴよんぴよん逃げまはつたこほろぎはまあどうでせう。恐しいほどでしたわ」
「春日野の浅茅あさぢがうへに思ふどち遊べる今日は忘らえめやも」(巻十・一八八〇)という歌を見ても分かる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
心悸臂揺ひようし、茫然自失して筆を落し続け、写生はお流れ、それからちゅうものは日々憂鬱してしん定まらず「浅茅あさぢふの小野のしの原忍ぶれど、余りてなどか人の恋しき」
稀に残る家は門前草深くして庭上露しげし、よもぎそま浅茅あさぢはら、鳥のふしどと荒れはてて、虫の声々うらみつつ、黄菊紫蘭の野辺とぞなりにける、いま、故郷の名残りとては
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
荻原は隣家りんかおきなに注意せられて万寿寺に往ってみると浴室の後ろに魂屋たまやがあって、かんの前に二階堂左衛門尉政宣の息女弥子吟松院冷月居尼ぎんしょういんれいげつきょにとし、そばに古き伽婢子とぎぼうこがあって浅茅あさぢと云う名を書き
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ゆうがた、浅茅あさぢはらのあたりだの、ついじのくずれから菜畑などの見えたりしている高畑たかばたけの裏の小径こみちだのをさまよいながら、きのうから念頭を去らなくなった物語の女のうえを考えつづけていた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
八六かはらで独自ひとり浅茅あさぢが原に住みつることの不思議さよといふを、八七聞きしりたれば八八やがて戸を明くるに、いといたう黒くあかづきて、まみはおち入りたるやうに、八九げたる髪もにかかりて
色変はる浅茅あさぢを見ても墨染めにやつるるそでを思ひこそやれ
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この妻は寂しけれども浅茅あさぢの露けき朝は裾かかげけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
茅花つばな抜く浅茅あさぢが原のつぼすみれ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
いへにしてわれひむな印南野いなみぬ浅茅あさぢうへりし月夜つくよを 〔巻七・一一七九〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
風吹けばづぞ乱るる色かはる浅茅あさぢが露にかかるささがに
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
浅茅あさぢ宿やど
秋風あきかぜさむくなべ屋前やど浅茅あさぢがもとに蟋蟀こほろぎくも 〔巻十・二一五八〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)