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かはづら
残暑の
夕日が一しきり夏の
盛よりも
烈しく、ひろ/″\した
河面一帯に燃え立ち、
殊更に大学の
艇庫の
真白なペンキ
塗の
板目に反映してゐたが
河面は
対岸の
空に
輝く
朝日ビールの
広告の
灯と、
東武電車の
鉄橋の
上を
絶えず
徃復する
電車の
燈影に
照され、
貸ボートを
漕ぐ
若い
男女の
姿のみならず
もういくら待つても
人通りはない。
長吉は
詮方なく疲れた眼を
河の
方に移した。
河面は
先刻よりも一体に
明くなり
気味悪い雲の
峯は影もなく消えてゐる。
道子は
橋の
欄干に
身をよせると
共に、
真暗な
公園の
後に
聳えてゐる
松屋の
建物の
屋根や
窓を
色取る
燈火を
見上げる
眼を、すぐ
様橋の
下の
桟橋から
河面の
方へ
移した。