此店ここ)” の例文
磯は少時しばら此店ここの前を迂路々々うろうろしていたが急に店の軒下に積である炭俵の一個ひとつをひょいと肩に乗て直ぐ横の田甫道たんぼみちそれて了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
見損みそこなっちゃあいけねえぜ、おい。此店ここのまんじゅうみてえに、白ぶくれにふくれていやがって。那珂川原なかがわら勘太郎かんたろうを知らねえのか、てめえは」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ホウ、それは愁傷しゅうしょうであったな。——が、此店ここへ入ったとき、綺麗な娘が居たように思うが——あれは誰だ」
この男は一週間ばかり前からちょいちょい此店ここへ来て飯を喰ったり酒を飲んだりする男で、お金もたんまり持っているらしく、此店ここに来る客人のうちでは上々の部であった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もう朝じゃあない、此店ここでは商業をはじめたな、と思ったときに戸はノックされた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その人は高村東雲たかむらとううんというかただが、久方ひさかたぶりに此店ここへおでなすって、安さん、誰か一人い弟子を欲しいんだが、心当りはあるまいか、一つ世話をしてくれないかと頼んで行ったんだ。
此店ここで草履を見着けたから入ったが、小児こどものうち覚えた、こんな店で売っている竹の皮、わらの草履などは一足もない。極く雑なのでも裏つきで、鼻緒が流行のいちまつと洒落しゃれている。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたきの爺様の代に此店ここの先代という人にうまうま一杯められて——ああ口惜しい
「ホウ、それは愁傷しうしやうであつたな。——が、此店ここへ入つた時、綺麗な娘が居たやうに思ふが——あれは誰だ」
「およしなさい、帳場だの、お客たちが、笑っているじゃありませんか。とにかく此店ここを出ましょうよ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帰路かえりみちに炭屋がある。この店は酒もまき量炭はかりずみも売り、大庭もこの店から炭薪を取り、お源も此店ここへ炭を買いに来るのである。新開地は店を早くしまうのでこの店も最早もう閉っていた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「よく御縁がござります。へへへ、手前は此店ここの手代で」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もう、要らないわ、此店ここへ返して、ね。」
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、そんな関係から、妾のお光さんは、南京街の李鴻章りこうしょうの地下室も愚連隊の巣にしてしまい、此店ここの地底倉庫も、みんなとの会合場所に利用する特権をもっている。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此店ここじゃ生物は扱わないだろうな」
わたしは、あのお侍が嫌いでならないのに、茶屋の持主は、あのお侍と遊びにゆけと、此店ここが閉まるとすすめるのです。あなたの家へ隠してくれませんか。女ですから水仕事やほころびを
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いつから此店ここに居るんだ」
右衛門七はほんを見ているし、自分は往来を眺めていたが——今ひょいと気がついて、此店ここ暖簾のれんの蔭をのぞくと、一人の編笠をかぶった侍がたたずんでいて、いつ迄も、凝と店の中を見入っている——
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それがまだ今日此店ここへ見えませんようなわけで」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)