機智きち)” の例文
こつなどのは、質屋しちやのことを御存ごぞんじかな。』と、玄竹げんちく機智きちは、てき武器ぶきてきすやうに、こつな言葉ことばとらへて、こつなかほいろあかくさせた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
何を以てか俳句本来の面目となすや。仏教的哀愁と都人とじん特有の機智きち諧謔かいぎゃく即ちこれなり。この二者あつて初めて俳諧狂歌は生れ来りしなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この成算せいさんがあったので、龍太郎は四日のあいだに、四百の兵を引きうけた。そして、その機智きちが、意外に大きなこうをそうした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耳には、そうだ! 彼女の快活な湿しめりのある声や、機智きちに富んだ言葉などが、何時までも何時までも消えなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は機智きちがあるというよりも滑稽にいで、にぎやかで快活というよりはのんびりと上機嫌であり、気むずかしく陰気というよりは物思わしげで憂鬱ゆううつである。
姫君は容貌ようぼうといい、性質といい憎むことのできぬ可憐かれんな人であった。ひどく恥ずかしがるふうも見せず、感じよく少女らしくはあるが機智きちの影が見えなくはない。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それを恋人の三谷青年が、機智きちを働かせて、棺桶という絶好のかくみので、邸から逃がしてやった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこは、さすが機智きち縦横の一休和尚です、すかさず、一首の和歌をもって、これに答えました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
が、必ずしもその笑いは機智きちに富んだ彼の答を了解したためばかりでもないようである。この疑問は彼の自尊心に多少の不快を感じさせた。けれども父を笑わせたのはとにかく大手柄おおてがらには違いない。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の機智きちが動き出すのは、いつもそんな時である。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
竹童ちくどうは、あわててそれを呼びかえしたが、べつに、どういう口実こうじつもないので、とっさの機智きちを口からでまかせに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諷刺ふうし滑稽こっけい黄表紙きびょうしはその本領たる機智きちの妙を捨ててようや敵討かたきうち小説に移らんとし、蒟蒻本こんにゃくぼんの軽妙なる写実的小品は漸く順序立ちたる人情本に変ぜんとするの時なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
機智きちもありそうには見えた。この山荘に置いて、思いのままに来て逢うことのできないのを今すでに薫は苦痛と覚えるのは深く愛を感じているからなのであろう。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
黒髪皎歯こうし清麗真珠の如く、艶容えんよう人魚の如き瑠璃子は、その聡明そうめいなる機智きちと、その奔放自由なる所作とを以て、彼女を見、彼女に近づくものを、果して何物に化せしめるであろうか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その機智きち感嘆かんたんの声をあげたが瓔珞のかざ座金ざがねがくさっていたとみえて、龍太郎の体がつりさがるとともに、金鈴青銅きんれいせいどう金物かなものといっしょにかれの五体は、ドーンと大地におちてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尼君は若い時代に機智きちを誇った才女であったのであろう。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)