権衡けんこう)” の例文
旧字:權衡
守随しゅずい兵三郎なる者甲府から江戸に入って、関東八州の権衡けんこうつかさどり、のち徳川家康の御朱印ごしゅいんを頂いて東日本三十三ヶ国の秤の管理専売を一手に掌握しょうあく
さようしからば顔を洗って出直しましょうかな。——ええ——これから鼻と顔の権衡けんこう一言いちごん論及したいと思います。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに人はその身体、ことに神経の構造により、一方の智力がことさらに発達し、その他の力たとえば意志がこの智力と権衡けんこうがとれぬときは気弱きよわになる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
独り金持が勝手におごるのみならず、同じ一軒の家でも亭主が多く食いまた酒に使い、ほかの食物に使う生計費が権衡けんこうを失している。消費の方法も当を得ていない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「で、わしを先生という日になると、勢い家内の事は奥さんと言わんと権衡けんこうが取れん。先生に対する奥さんじゃ。な、わしが先生、家内が奥さん、——宜しいか?」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
形は権衡けんこうの問題であるからこれは少しつり合いが変だと素人しろうとにも目につく、日本人の顔の大きさは彼女の洋装において一等皆さんの笑いのまととなるのである
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
新吉自身の家柄との権衡けんこうから言えば、あまりドッとした縁辺えんぺんでもなかった。新吉のうちは、今はすっかり零落しているけれど、村では筋目正しいいえの一ツであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
朝旨にもとらず、三条の教憲をしかと踏まえて、正を行ない、邪をしりぞけ、権衡けんこうの狂わないところに心底を落着せしめるなら、しいて天理に戻るということもあるまい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しこうしてその智力は権衡けんこうもってはかるべきものに非ざれば、その増減を察すること、はなはだかたし。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
塔身の高さがその広さに対し最低限の権衡けんこうを示していること、あるいは上に行くほど縮まって行く軒のうちで第二と第四がこころもち多く引っ込み、従って上部にとがって行く塔勢が
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
欄間らんま、天井等の角度は、著しく平坦へいたんにして、窓、垣、池などに咲く花は人物家屋に比してその権衡けんこうを失したれば、桜花は常に牡丹ぼたんの如く大きく、河骨こうほねの葉はさながら熱帯産の芭蕉ばしょうの如し。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
締った体の権衡けんこうが整っていて、顔も美しい。若し眼窩がんかの縁を際立たせたら、西洋の絵で見る Vesta のようになるだろう。初め膳を持って出て配った時から、僕の注意をいた女である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
専門以外の部門に無識にして無頓着むとんじゃくなるがため、自己研究の題目と他人教授の課業との権衡けんこうを見るの明なきがため、往々おうおうわが範囲以外に飛びえて、わが学問の有効を
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中央に支柱が立っていて、両方のさら権衡けんこうを取るようになっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)