曲者しれもの)” の例文
狷介けんかい不覊ふきなところがある。酒を飲めば、大気豪放、世の英雄をも痴児ちじのごとくに云い、一代の風雲児をも、野心家の曲者しれもののごとくそしる。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは存外、甲羅をへた曲者しれもの、なかなか油断はなりません。——金吾はおぼえず杖に仕込んである了戒をにぎりしめてそう思う。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お十夜のような曲者しれものを、こう呑んでかかる旅川周馬には、邪智に富んだ一面があって、たえず、悪心が陰謀的に、また打算的に働く性格をもっている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すでに周都督を、気をもて殺しながら、口を拭いて、自らそのとむらうと称し、呉へ来るなどは、呉人を盲にした不敵な曲者しれもの、呉にも眼あきはいるぞ」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追いつつ先の曲者しれものの姿を見ると、太縞ふとじま旅合羽たびがっぱこんのきゃはん、道中師戸隠とがくしの伊兵衛というのはあの野郎です——と釘勘が目で囁いた人相の者にちがいはない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべてのいきさつをねんごろにさとされたら、それでもなお、自分を本位田家の仇とはよもいいきれまい、また息子の嫁を横奪よこどりして逃げた曲者しれものともまさかうらむまい。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ただ今、この内へ、傷負の浪人が逃げ込んだ筈——討たでは措かれぬ憎ッくい曲者しれもの、お渡しください』
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狩衣かりぎぬの下に、ものを着、太刀をわきばさんで、うつぼ柱の辺りに、かがまり忍ぶ布衣ほい曲者しれものぞ』
「昨夜はこれへ来て、旧主へ弓をひき、今朝はこれへ来て、口舌こうぜつの毒策を試むるか。あの曲者しれものを射ろ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「尊王の美しき仮面めんをかぶるな。禁門の御衰微ごすいびを売りものにして、身を肥やそうとする曲者しれものの口癖」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仮面めんを取ったその顔は、確か、いつか釘勘と共に、石神堂で取逃がした曲者しれものに違いありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その返答としては「配下の者の旅籠はたご屋でからめ捕った曲者しれものは、梁山泊りょうざんぱくの廻し者ゆえ、他人の手にはまかされぬ。わが家から奉行所へ突き出す」と、けんもほろろに突ッねられ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかもまた、男山で殿を襲った曲者しれものも、楠木の弟の部下。それと分りながら殿も殿です。都の中とはいえ、夜ふけの道を、その楠木の手の者に送られてお帰りあるなどとは」
「言語道断な曲者しれもの。その首を、塩桶しおおけに詰めて、蜀へ送り返せ」と、身をふるわせて罵った。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「先頃来、夜々、市中をさまようて、公儀の御高札を仆し、狼藉ろうぜきを働きおった曲者しれものは、たしかに、その方であろうな。こよいも、その現場から召捕られて来たということだが」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……もしやまたおまえもそんな徒輩てあいの仲間に染み、不忠不孝の曲者しれものにでもなり終っては、ご先祖にあいすまぬと、日夜心をいためていたところへ、あの石勇せきゆうという男がみえたので
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「仰せまでもないこと。明け方までには、曲者しれものどもを引ッくくり、後見参に入れ申さん」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たそがれこの近くで、一人の曲者しれものを捕り逃がし、それを狩りたてていたわけなので」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
念のため、申しおくならば、その曲者しれものは三十六、七の眼のするどい雑人態ぞうにんていの男でおざる
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「問注衆の列座を前に、新田は良い子になりおった。また、道誉と来ては、箸にも棒にもかからぬ曲者しれもの。なるほど当世の婆娑羅者とはああしたものか。開いた口もふさがらなんだ」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、六波羅蠅は、旅の付き物だが、きのう見た一匹は、放免どものうちでも、頭立かしらだった曲者しれものと思われた。ここはみなの申すごとく、大事とならぬまえに、禍いを絶っておくか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さては先ほど、白々しい礼を執って、観月の宴に、お招きしたいとかいって帰った使者がそれだろう。小賢こざかしい曲者しれものめが」と、きばんで、すぐにも軽騎七、八十を引具し、城内へ突入して
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや先生。こいつ捨ておけん曲者しれものですぜ。村のしめしのためにもです」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
罪におとし入れ、自滅させようと計った曲者しれものは、確かに、汝に相違ないっ
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蔵は一方の曲者しれもの以上にも正成のその言を怪しんで「——万一でもあったら、てまえの役目が立ちませぬ。どう言葉巧みに殿へ近づいたものかは存じませぬが、構えて、そのむじなにおたばかれなされますな」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この斬り口を見ろ! すごいやつだ。とても唯の曲者しれものではない」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おちつけ。さほどな曲者しれものでもあるまいゆえ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この曲者しれものを斬り捨てろ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曲者しれものめ。誰に頼まれた」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この、曲者しれものッ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)