昼飯ひる)” の例文
旧字:晝飯
昼飯ひるの後、中学生の直樹は谷の向側にある親戚を訪ねようとして、勾配こうばいの急ながけについて、折れ曲った石段を降りて行った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お眼の不自由な惣七さまは、わたしがいないで、誰のお給仕でお昼飯ひるを召し上がったろう?——佐吉かしら、国平かしら、それとも滝蔵——。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
枕もとに松籟しょうらいをきいて、しばらく理窟も学問もなくなった。が、ふと、昼飯ひるぜんに、一銚子ひとちょうし添えさせるのを言忘れたのに心づいて、そこで起上たちあがった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが、昼飯ひるにしようという合図なのである。キャラコさんは、それを見るといっさんに谷底へ駆けおりる。……。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
昼飯ひるを食べたから、出かけようとすると、久しぶりに熊本出の友人が来る。ようやくそれを帰したのはかれこれ四時過ぎである。ちとおそくなったが、予定のとおり出た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お作は勝手なれぬ、人の家にいるような心持で、ドギマギしながら、昼飯ひるの支度にかかった。 
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しきりと、ひきとめたが、皆、胸がいたんで長居ができなかった。芝村しばむらの腰かけ茶屋へ来て、昼飯ひるをつかい、淀の上舟のぼりの時刻を聞いて、それまで、奥の床几しょうぎで一眠りしていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中婆さんはいつも他の参詣人のいない、たとえばお昼飯ひるのころとか、午後の四時近いときかに、たくみに参詣人の途絶えたとき、賽銭箱の錠を開けることが非常に上手であった。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
もし昼飯ひるに立ったりしていて掛け換わりでもしては写し損ねますので、坐り込んでしまったわけなのでしたが、その頃は今のようにそうした場所で縮図などしているような人もありませず
座右第一品 (新字新仮名) / 上村松園(著)
オヤお昼飯ひるたくでしょう。サア行きましょう。(かけだす音)バタバタバタ
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「お昼飯ひるにしとおくれやんす」
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「お昼飯ひるに、おかゆをホンのぽっちり——牛乳はいやだって飲みませんし——真実ほんとに、何物なんにも食べたがらないのが一番心配です」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昼飯ひるさいに豆腐でも買おうとこうやって路地口まで豆腐屋を掴まえに出張って来たものの、よく読めないくせに眼のない瓦本かわらぼんでつい髪結床へ腰が据わり
雪女郎の柳を、欄干から見る、その袖もかかりそうな、大川べりの料亭一柳で、昼飯ひるを済ました。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼飯ひるは相川がおごった。その日は日比谷ひびや公園を散歩しながら久し振でゆっくり話そう、ということにめて、街鉄がいてつの電車で市区改正中の町々を通り過ぎた。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やれ教育だ、それ睡眠時間だ、もう一分で午砲どんだ、お昼飯ひるだ。おまんまだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御隠居さんはここへいらしって下さい。ここでお昼飯ひるを召上って下さい。なかは反ってごたごたいたしますから」
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昼飯ひるの支度は、この乳母うばどのにあつらえて、それから浴室へ下りて一浴ひとあみした。……成程、屋の内は大普請らしい。大工左官がそちこちを、真昼間まっぴるま夜討ようちのように働く。……ちょうな、のこぎり鉄鎚かなづちにぎやかな音。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何事も知らない旅舎やどやの亭主は、お種が昼飯ひるの仕度に寄って種々いろいろなことを尋ねた時に、手をんだ。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それはそうと、お嬢さまがいらしって下すっても、今日はお昼飯ひるの支度も致して置きませんで」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
橋本の家の台所では昼飯ひるの仕度に忙しかった。平素ふだんですら男の奉公人だけでも、大番頭から小僧まで入れて、都合六人のものが口を預けている。そこへ東京からの客がある。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昼飯ひるの後、生徒の監督を他の教師に任せて置いて、丑松は後仕末をする為に職員室に留つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
昨日の朝、父はまた捜しに出た。いつも遠く行く時には、必ず昼飯ひるを用意して、例の『山猫』(かまなたのこぎりなどの入物)に入れて背負しよつて出掛ける。ところが昨日に限つては持たなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)