昔日むかし)” の例文
元来いつたい政治をるに天子様をさしはさんで為やうといふは日本人の不心得で、昔日むかしから時の政府に反対するものを直ぐ朝敵にして了うが
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
国民の膏血かうけつを分けて貰つて、不義の栄耀ええうふけり、其手先となつて昔日むかし朋友ほういうの買収運動をさへなさるとは、姉さん、まア、何と云ふ堕落でせうか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昨日きのふといふ過去は幾十年を経たる昔日むかしの如く、今日けふといふ現在は幾代いくよにも亘るべき実存の如くに感じ、今迄は縁遠かりし社界は急に間近に迫り来り
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
もうそのころ羽左衛門は昔日むかしの若造でもなければ、負債があるとはいえ、ひっぱりだこの青年俳優であった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どこからともなく蹣跚よろばい出てくるお艶は、毎日決まって近江屋の門近く立って、さて、天の成せる音声のどに習練の枯れを見せて、往きし昔日むかしの節珍しく声高々と唄い出でる。
禿頭はげあたま佛蘭西フランス老紳士らうしんし昔日むかし腕前うでまへせてれんとバイオリンをつてくかかぬにうたきよくをハツタとわすれて、あたまで/\罷退まかりさがるなど隨分ずゐぶん滑※的こつけいてきこともあるが、大概たいがいうでおぼえの歐米人をうべいじんこととて
香玉が﨟たさはつゆ昔日むかしにかはらざりき。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
思ひ出いたき昔日むかし
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
山木さんも昔日むかしから彼様あんなでは無かつたので御座いますよ、全く今の奥様が悪いのです、——わたし毎度いつも日曜日に、あの洋琴オルガンの前へ御座りなさる梅子さんを見ますと
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
去るものはうとし——別離は涙か、嘲罵あざけりか、お鯉は昔日むかしよりも再勤ののちの方が名が高くなった。羽左衛門たちばなやのお鯉さん、かつらさんのお鯉さんとよばれる一代の寵妓ちょうぎとなった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ふところに収めたる当世風の花簪はなかんざし、一世一代の見立みたてにて、安物ながらも江戸の土産みやげと、汗を拭きふき銀座の店にてひたるものを取出して、昔日むかし少娘こむすめのその時五六歳なりしものゝ名を呼べば
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
老女の心は、はしなくも二十年の昔日むかしに返へりて、ひたすら懐旧の春にあこがれつゝ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)