旅順りょじゅん)” の例文
旅順りょじゅんもなかなか陥落しそうでないし、バルチック艦隊もいよいよ東洋に向って出発するそうだし、こりゃもう、大変な事になるかも知れない。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこでホテルの支配人に、どこか静かな場所はないかと相談を持ちかけてみると、旅順りょじゅんの町はづれにある黄金台ホテルといふのを教へてくれた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
日露戦争の旅順りょじゅん攻撃の記念の様にして起った名称で、前髪に芯を入れて、額の上に大きくふくらました形の、俗に庇髪ひさしがみと云った古風な洋髪のことだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
明治三十七八年戦役せんえきのとき、旅順りょじゅんいくさにおいて、敵の砲台を爆破するため、こうした坑道こうどうを掘ったことがあるそうだ
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この緑雨の死亡自家広告と旅順りょじゅんの軍神広瀬ひろせ中佐の海軍葬広告と相隣りしていたというはその後聞いたはなしであるが、これこそ真に何たる偶然の皮肉であろう。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかしながら、まだ一、二の大戦はあるか知れぬが、その内に旅順りょじゅんも陥落する。あるいは浦塩斯徳ウラジオストックも陥落する。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
普通の人は戦争とさえ云えば沙河しゃかとか奉天ほうてんとかまた旅順りょじゅんとかそのほかに戦争はないもののごとくに考えている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅順りょじゅん仁川じんせんの海戦があってから、静かな田舎いなかでもその話がいたるところでくり返された。町から町へ、村から村へ配達する新聞屋の鈴の音は忙しげに聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
はたけに出てあか実付みつき野茨のばら一枝ひとえだって廊下の釣花瓶つりはないけけ、蕾付つぼみつき白菜はくさい一株ひとかぶって、旅順りょじゅんの記念にもらった砲弾ほうだん信管しんかんのカラを内筒ないとうにした竹の花立はなたてし、食堂の六畳にかざる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
旅順りょじゅんで勇戦した有名な将官らが、名古屋にいた。私はその取締りにむけられたのである。私は俘虜から敬愛された。そこにいること三ヵ月であったが、俘虜は私に大いに感謝した。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
自分はその一二ひとふたつを受けながら、シナの水兵は今時分定めて旅順りょじゅん威海衛いかいえいおおへこみにへこんでいるだろう、一つ彼奴きゃつらの万歳を祝してやろうではないかと言うとそれはおもしろいと
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
第一回旅順りょじゅん攻撃の時負傷して、命は助ったんですが気が違ったんです。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
日露戦争の時、旅順りょじゅんの沖で壮烈な、勇ましい最期をとげた、名誉ある大戦艦の名だ。第二世『八島』も、ハワイ真珠軍港の沖で、第一世の『八島』に負けぬような、奮戦ぶりを見せたいものである。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
いよいよ旅順りょじゅん総攻撃を開始し、国内も極度に緊張して、私たち学生も、正貨流出防止のため、羊毛の服は廃して綿服にしようとか、金縁眼鏡の膺懲ようちょうとか
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
即ち支那はあたかも盛んに西洋文明を採用して富国強兵の術をつとめた頃で、洋式の陸海軍を編成し、特に大沽たいこ砲台、旅順りょじゅん威海衛いかいえいの軍港を設くる等、その面目を一新するのがいあり。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それから日清のえきにこの近在の村から出征して、旅順りょじゅんで戦死した一等卒の墓もあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかし夫の仕送りがとぎれて、しかたなしに親の里へ帰るのだから心配だ。夫はくれにいて長らく海軍の職工をしていたが戦争中は旅順りょじゅんの方に行っていた。戦争が済んでからいったん帰って来た。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今回協会の奨励金しょうれいきんを貰って、旅順りょじゅん大学の東京派遣研究班が、主として音響学について研究するということに決定きまったそうで、それには実験室を建てねばならないが、適当な地所が見付からないために
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのとしの二月には露国に対し宣戦の詔勅しょうちょくが降り、私の仙台に来たころには遼陽りょうようもろく陥落かんらくし、ついで旅順りょじゅん総攻撃が開始せられ、気早な人たちはもう、旅順陥落ちかしと叫び
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうして御前は旅順りょじゅんを見たかと余に尋ねた。旅順を見ないなら教えるが、いつの汽車で行って、どことどこを見て、それからいつの汽車で帰るが好いと、自分のやった通りをくわしく語って聞かせた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)