こと)” の例文
旧字:
広田先生は其話そのはなしをした時に、笑ひながら、尤も是はわたしせつぢやないよとことわられた。成程三四郎にも何処どこが名文だかわからない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こまるなあ。おいことわっちまえよ。奮起す。おーい、火山だなんてまるでべつだよ。ちゃんと立派りっぱなビルデングになってるんだぜ。
ただし前もっておことわりしておきますが、わたくしはリョウマチのために人様のようにはからだがきません。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
おばあさんはそれを聞きましたが、その日はこの世も天国ほどに美しくって、これ以上のものをほしいとも思いませんでしたから、礼を言ってことわってしまいました。
そのとおり……ことわっておくが、柚子さんは、その相手と、ただの一度も、文通したこともなければ、話をしたこともない。もちろん、手を握ったなんてこともない。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
家族はみんな追出してしまって、李花は吾々の手の内のものだ。それだけあらかじことっておく、いいか。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嫁入りしてからは、一度もこの仕事をことわったことはありません
けれどもそこにわざとらしく笑っている顔の多くが私に与えた不快の印象はいまだに消えずにいた。それで私はことわろうとしたのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日けふおそくなるとか云つてことわつてゐた。此間このあひだから演芸会の事で大分奔走してゐる様だが、世話きなんだか、まはる事がきなんだか、一向要領を得ない男だ」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おれが増給をことわったと話したら、大将大きに喜んでさすが江戸っ子だ、えらいとめてくれた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その会話の中には親鸞上人しんらんしょうにん蓮如上人れんにょしょうにんという名がたびたび出て来た。十時少し廻った頃、松本は菓子と御布施おふせを僧の前に並べて、もうよろしいから御引取下さいとことわった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はその時留学をことわろうかと思いました。それは私のようなものが、何の目的ももたずに、外国へ行ったからと云って、別に国家のために役に立つ訳もなかろうと考えたからです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ついでだから一杯食って行こうと思って上がり込んだ。見ると看板ほどでもない。東京とことわる以上はもう少し奇麗にしそうなものだが、東京を知らないのか、金がないのか、滅法めっぽうきたない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれはうそをつくのがきらいだから、仕方がない、だまされて来たのだとあきらめて、思い切りよく、ここでことわって帰っちまおうと思った。宿屋へ五円やったから財布さいふの中には九円なにがししかない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)