すつ)” の例文
ああ悔いても及ぶことかは。とてもかくてもすつる命の、ただこの上は文角ぬしの、言葉にまかせて金眸が、洞の様子を語り申さん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
雪水せつすゐ江河かうがみなもとやしなふなど、此外つまびらかにいはゞなほあるべし。是をおもへば天地の万物すつべきものはあるべからず、たゞすつべきは人悪じんあくのみ。
余は此事件の真実の転末を知んが為には身をすてるも可なり職業をすつるも惜からずとまでに思いたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
すつるは孝道かうだうに相違無けれ共能承まはれ其方は一たん城重方へ養子となり針治しんぢ導引だういんの指南を受し上手足を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かめす花見ても知れおしなべてめづるはすつる初めなりけり」という歌の心は、ながめは誠にどうも総々ふさ/\とした此の牡丹は何うだい、いねえ水を上げたところは、と珍らしがって居りますが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すつるとなると此の情世界が甚だ寂莫せきばく最少し艶氣を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「さても情深き殿たちかな。かかる殿のためにぞならば、すつる命もおしくはあらず。——妾が自害は黄金ぬしが、御用に立たんねがいに侍り」「さては今の物語を」「なんじは残らず……」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
其方今實父富右衞門の名代みやうだいとなり御仕置になりて相果たらば何樣いかさま富右衞門へ孝行かうかうは立にもせよ養母の養育は誰がするぞ義理有る養母をすつるは不孝ふかう此上無しよも富右衞門夫婦の者共も是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
結句つまりは親子三匹して、命をすつるに異ならねば、これ貞に似て貞にあらず、まことの犬死とはこの事なり。かくと心に思ひしかば、忍びがたき処を忍び、こらえがたきをようやく堪えて、見在みすみす雄を殺せしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)