指物師さしものし)” の例文
あらゆる作家は一面には指物師さしものしの面目を具へてゐる。が、それは恥辱ではない。あらゆる指物師も一面には作家の面目を具へてゐる。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かねてからわが座敷の如何いかにも殺風景なのを苦に病んでいた彼は、すぐ団子坂だんござかにある唐木からき指物師さしものしの所へ行って、紫檀したん懸額かけがくを一枚作らせた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは享和きょうわ二年に十歳で指物師さしものし清兵衛せいべえの弟子となって、文政ぶんせいの初め廿八歳の頃より名人の名を得ました、長二郎ちょうじろうと申す指物師の伝記でございます。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ひとつ考えてみよう、そうさ、これはずっと昔の話だが、大工だか指物師さしものしだかの職人がいた、女房も子供もあり、たしか母親もあったと聞いたが」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
指物師さしものしとなかまの人たちは、のふけるまでにぎやかにさわいでいましたが、やがて、みんなはねむりにつきました。わかい職人しょくにん寝床ねどこにはいりました。
「タイメイ」という人は若い指物師さしものしで、やはり東京に何年か出ていたのだが、病気で帰っているという。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
家の人たち——指物師さしものしの老夫婦とその息子は、いぶかしげにじろじろとアリョーシャを見まわした。
王妃は、お附きの指物師さしものしに言いつけて、私の寝室になるような、一つの箱を作らせになりました。
網の目のように入り乱れたその騒々しい小路は、流言蜚語ひごで満たされた。人々はできるだけの武装をした。ある指物師さしものしらは、「戸を破るため」に仕事台の鉤金かきがねを持ち出した。
車屋に沿うて曲って、美術床屋に沿うて曲ると、菓子屋、おもちゃ屋、八百屋、うなぎ屋、古道具屋、皆変りはない。去年穴のあいた机をこしらえさせた下手な指物師さしものしの店もある。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
○十一月、新富座にて円朝の「指物師さしものし名人長次」を脚色して上演。菊五郎の長次、好評。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
死んだ父親は指物師さしものしだったが、無器用だから、あとを継ぐ見込みはないし、一年おくれて、母親もあとを追い、天涯孤独となった八五郎は、藤沢の遊行寺ゆぎょうじへ遺骨を納めにゆく途中
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
指物師さしものしがいろいろな製作をしましても、一時的な飾り物で、決まった形式を必要としないものは、しゃれた形をこしらえたものなどに、これはおもしろいと思わせられて、いろいろなものが
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
指物師さしものしのランツという名前を考えだし、——この名前を思いついたのは、グルゥバッハ夫人の甥の大尉がそういう名前だったからだが——ここに指物師のランツという人が住んでいませんか
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
指物師さしものし 四二 五—七 一五四 八一 二〇四 二九二八 
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
あらゆる作家は一面には指物師さしものしの面目をそなえている。が、それは恥辱ではない。あらゆる指物師も一面には作家の面目を具えている。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
世の中はそう思っておりません。なんの小説家がと、小説家をもってあたかも指物師さしものしとか経師屋きょうじやのごとく単に筆をねぶって衣食する人のように考えている。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いちばん上のむすこは、ある指物師さしものしのところへ年季奉公ねんきぼうこうにいったのでした。そこで、むすこはいっしょうけんめい、うまずたゆまずしごとをおぼえました。
「文次だ」と彼は押っかぶせるように云った、「職は指物師さしものし、名めえは文次、わかったか」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
若い指物師さしものしで、のみと縁があるだけに此處は容易ならぬ匂ひがするのです。
「早く入れてもらえよ。」とひとりの織り物工が指物師さしものしに言った。
あくる朝、指物師さしものし宿賃やどちんをはらって、あのテーブルを背中せなかにしょいました。もちろん、にせものをもっていようなどとはゆめにも知らず、たびをつづけていきました。
指物師さしものしが百円に負けて置くから買わないかといった立派な紫檀したんの書棚をじろじろ見ながら、彼はその二十分の一にも足らない代価を大事そうに懐中から出して匠人しょうにんの手に渡した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今夜は、私のおいの初七日でございましてな」と、老人は歩きながら云った、「腕のいい指物師さしものしで、年は二十八でしたよ、男っぷりがいいもんですから、ずいぶん娘っ子に騒がれたもんですが、 ...
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「だってあれは、京橋白魚河岸の、指物師さしものしで」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)