手掴てづか)” の例文
ところで、一刻いつこくはや仕上しあげにしやうとおもふから、めし手掴てづかみで、みづ嚥下のみおろいきほひえてはたらくので、時間じかんも、ほとんど昼夜ちうや見境みさかひはない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大いに怒って修験者それ自身が狂気のごとく用意の防霰弾を手掴てづかみに取って虚空こくうに打ち付け投げ付けて霰と戦うです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彷徨さまよいあるき、なにかの幸福を手掴てづかみにしたい焦慮しょうりょに、身悶みもだえしながら、遂々とうとう帰国の日まで過してしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
したがって二人とも我々同様手掴てづかみで食べているのであったが、その手掴みとても決して土人たちのそれのように鷲掴みで口の中へほうり込むわけなぞではなかった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人間の味をしらず、そばまで行っても人臭ひとくさいような顔もしないので、いくらでも手掴てづかみでとれた。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
渠はそのへんを泳いでいた魚類を五、六尾手掴てづかみにしてむしゃむしゃ頬張ほおばり、さて、腰にげたふくべの酒を喇叭らっぱ飲みにした。うまかった。ゴクリゴクリと渠は音を立てて飲んだ。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そんなはけ口のない情慾を紛らすために、僕らは牛肉屋へ行って酒をあおり、肉を手掴てづかみにして壁に投げつけたり、デタラメの詩吟をうたって、往来を大声で怒鳴り歩いたりした。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
言った通りの魚を手掴てづかみにして来る。
手掴てづかみの二銭銅貨なり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
雨霽あまあがりで元気はよし、女小児こどもの手前もあって、これ見よがしに腕をさすって——おらが一番見届ける、得物なんぞ、何、手掴てづかみだ、と大手を振って出懸けたのが、山路へかかって、八ツさがりに
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)