戯言ざれごと)” の例文
旧字:戲言
いわんや酒を飲みたることなきは勿論、婦人に戯言ざれごとを吐きたることなきは勿論、遊廓などに足蹈みしたるさまは一向に見受け申さず候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
情熱の宿命を——浪漫主義作家の戯言ざれごとを、彼は信じていなかった。戦うべき義務と力とを信じていた。自分の意志の力を信じていた……。
『万葉集』には志斐嫗しいのおうなというのが戯言ざれごとで持統女帝の御相手を申しあげているが、そうした役の女房が後宮にも必要であった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
彼が、他愛のないいちゃつきの戯言ざれごとと読んだあの筆談の文字は、じつは心中を決意した二人の純粋な愛情の言葉だった。
赤い手帖 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
たった一夜の、かりそめの戯言ざれごとが、人間幾人の命を棒に振って、こんな恐ろしい破局カタストロフィーにまで導いてしまったのです。
彼の言は、戯言ざれごとである。けれども、実際わたくしとしては、その当時が死すべきときであったかも知れぬ。
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
酒がいわせる一場の戯言ざれごとではなさそうだ。胸いッぱいな自暴やけと、虚無と、泣きたいような悔いを吐くために、お島は、酔えるだけ酔おうとしているらしいのである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昇はさして変らず、尚お折節には戯言ざれごとなど云い掛けてみるが、云ッても、もウお勢が相手にならず、勿論嬉しそうにも無く、ただ「知りませんよ」と彼方あちら向くばかり。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何さま幾十年を黒部の山谷に過した助七のことである。気まぐれの戯言ざれごとが其儘地名となったものも少くあるまい。滝倉谷の奥にある駒ヶ岳なども、形が独楽こまに似ているので付けた名だそうだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
答へて曰く、固より梅が香を歌に詠まれぬといふ訳は少しもなけれど、余り陳腐なる歌多き故、前に戯言ざれごとを放ちたるなり。趣味あるやうに、陳腐ならぬやうに詠まば、梅が香も好題目なるべし。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
不思議にも、その偉大さとその滑稽こっけいさとは親しく隣合い、その威厳はその戯言ざれごとから少しも乱さるることなく、同じ一つの口が、今日は最後の審判のラッパを吹き、明日は蘆笛あしぶえを吹き得るのである。
「旦那様、若松屋が、あなたさまが身代限りをなすったというのは、それはいったいどういうことでございますか。お戯言ざれごとでございませんければ、どうぞわけを、お聞かせなすってくださりませ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お光は今迄にもまして人中ひとなかに出るを厭がり、男などが戯言ざれごと云いかけても、ふいとわきを向いてしまう。其のかわり両親ふたおやには今迄にもまして孝行をする。口数はきかないが、それはそれはこまかに心をつける。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
口々に坑夫達は戯言ざれごとを云って坑道の方へ歩いて行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるいは小児の戯言ざれごとのごとくに見えるやもしれぬ。
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
その沈黙にびっくりして、彼は頭をあげ、その面白い戯言ざれごとをふたたび言ってやろうとした。すると彼の眼はゴットフリートの顔に出会った。
何も知らぬから、昇、例の如く、好もしそうな眼付をしてお勢の顔を視て、挨拶あいさつよりまず戯言ざれごとをいう、お勢は莞爾にっこりともせず、真面目な挨拶をする、——かれこれ齟齬くいちがう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
神楽の闇夜の篝火かがりびのそばで、採り物の歌の後、御酒をいただいた楽人たちがたくらんだ戯言ざれごとと同じ性質の笑い言が、清女の筆を通して文学の形を取り得た頃、同じように
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「くれぐれも、こよいのことは、水にながされよ。——北ノ庄殿へはわしから申した。なんの、大腹な筑前どののこと、若い者の一場いちじょう戯言ざれごとなどに気を悪うするものかと」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪の毛をどうしたかと尋ねたり、メルキオルの露骨な戯言ざれごとに乗せられて禿はげをたたくぞとおどかしたりしながら、彼らはいつもそのことで彼をからかってきなかった。
戯言ざれごととおききあるな。じつを申そう。仕儀はかようなわけでおざった」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とくに老人の方は、他人が示してくれる尊敬にいたく感じやすくて、気分を和げられた。彼らはルイザがそばで顔を真赤にするほどひどい戯言ざれごとを浴せかけて、それで満足していた。
「戦場に戯言ざれごとはございません」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——軍中に戯言ざれごとなしです」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦場に戯言ざれごとはない!
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)