だる)” の例文
頭もくずれて来たし、だるい体も次第にむしばまれて行くようであった。酒、女、莨、放肆ほうしな生活、それらのせいとばかりも思えなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はだるい毎日を二階に送っていたが、時々階下へ行っては、おかみさんの洗濯や、買ものに出かけたときに、少しずつ用足しをしていた。
音楽時計 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
さも手がだるいと云ふ風に、持つてゐたくだものく小刀を、Wの上に冠のある印の附いたさかづきの縁まで上げて一度ちいんと叩いた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
宿を立つ前から体がだるい懈いといっていたが、まったく幾らか体の調子が悪いのかも知れない。とうとうを折ったように
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手足から腰から、そこらじゅうが怖ろしくだるく、ぐったりと力の抜けた感じだった。頸筋がずきずき痛んだ。
紺縮こんちぢみ単物ひとえものに、黒襦子くろじゅすと茶献上との腹合せの帯を締めて、ほそい左の手に手拭てぬぐいやら石鹸箱シャボンばこやら糠袋ぬかぶくろやら海綿やらを、細かに編んだ竹のかごに入れたのをだるげに持って
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と言つて、だるさうに炉辺ろばたから立つて来て、風呂敷包みを受取つて戸棚の前に行く。海苔巻でも持つて行くと、不取敢とりあへずそれを一つ頬張つて、風呂敷と空のお重を私に返しながら
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
だるいやうな、ものうい姿でゐるゆき子の変化が、そゞろに哀れで、富岡は、昔歌舞伎で観た、朝顔日記の大井川だつたか、棒杭ぼうくひに抱きついて、嘆いてゐた深雪みゆきの狂乱が、まぶたに浮んだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
笹村はだるい頭の髪の毛をでながら、蒲団のうえに仰向いて考え込んでいた。注射をした部分の筋肉に時々しくしく痛みを覚えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二三ペエジ読むと、目がだるくなって来た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「時計にね。」とだるい声で言った。
音楽時計 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お島は後向になったまま、何をするかと神経をとぎすましていたが、今までだるくて為方のなかった目までが、ぽっかりいて来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
町にはどんよりした薄日がさして、そよりともしない空気に、羅宇屋らうやの汽笛などがだるげに聞え、人の顔が一様に黄ばんで見えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
田舎の思い出ばなしがいろいろ出た。お庄はべったり体を崩して、いつまでも聴きふけっていた。するうちに疲れたような頭脳あたまだるくなって来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この五、六日の不安と動揺とが、だるい体と一緒にとろけ合って、嬉しいような、はかないような思いが、胸一杯に漂うていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
内もひっそりしていて、菰被こもかぶりの据わった帳場の方の次の狭い部屋には、だるそうに坐っている痩せた女の櫛巻くしまき姿が見えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
両手を上へ伸ばして、突伏つっぷしになっていたお庄は、だるい体を崩して、べッたりと坐りながら、大きい手で顔をでたり、腕をさすったりしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ばけつをがらがらいわせて、働いているお島の姿を見ると、それでも女は、だるそうな声をかけて、日のじりじり照はじめて来た窓の外を眺めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そう言うお雪の横顔が、お増の目にみじめに見えた。張合いのなさそうな、だるいその生活がそぞろにあわれまれもした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
朝おきると、だるい彼女の体が、じきにそれらの軽快な服装を要求した。不思議なほど気持の引締ってくるのを覚えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
抱擁すべき何物もない一晩の臥床ねどこは、長いあいだの勤めよりもだるく苦しかった。太鼓や三味しゃみの音も想い出された。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昨夜ゆうべのままに散らかった座敷のなかに、ふかふかした蒲団をかずいて寝ている二人の姿が、だるいお増の目に、新しく婚礼した夫婦か何ぞのように、物珍しく映った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
海風に吹かれながら、昼飯を食べてから、二人はしばらく横になつて話してゐたが、するうちに疲れた頭脳あたまも体もけるやうなだるさをおぼえて、うと/\と快い眠に誘はれた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
朗らかに柔らかいだるい薄っぺらな自然にひどく失望してしまったし、すべてが見せもの式になってしまっている奈良にも、関西の厭な名所臭の鼻をくのを感じただけであった。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
播州人ばんしゅうじんらしい乗客の顔を、私は眺めまわしていた。でも言葉は大阪と少しも変わりはなかった。山がだんだんなだらかになって、退屈そうな野や町が、私たちの目にだるく映った。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しばらくすると、お国はだるそうに、うつむいたまま顔を半分こっちへ向けた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)