ぞつ)” の例文
無事ぶじであつてなによりじや。そのくろおほきなやまとは、くじらぢやつた。おそろしいこと、おそろしいこと、いただけでもぞつとする」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
その話を聞いて彼はぞつと寒気を感じたが、暇つぶしな人怖らせの空想として強ひて一笑に附し去らんとするのであつた。
父の色慾を遺伝したかと思ふとぞつとする。のみならず、借金しても何とも感じない処は父の悪い処を皆遺伝して居る——罪の遺伝?——と考へ込んで身震ひした。
丑松の空想は忽ち掻乱かきみだされて、ぞつとするやうな現実の世界へ帰るさへあるに、加之おまけに、文平が忸々敷なれ/\しい調子で奥様に話しかけたり、お志保や省吾を笑はせたりするのを見ると
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
養母おつかさん、お前は大臣なんてものが、其様そんな難有ありがたいのかネ、——わたしに取つちや一生忘られない仇敵かたきなんだよ——、あゝ、思うてもぞつとする、三月の十五日、私の為めの何たる厄日であつたのか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
如夜叉によやしやと思ひ込しいと物堅ものがたき長三郎も流石さすが木竹きだけに非れば此時はじめ戀風こひかぜ襟元えりもとよりしてぞつみ娘も見たる其人は本町業平俳優息子なりひらやくしやむすこ綽名あだなの有は知らざれどたぐまれなる美男なれば是さへ茲に戀染こひそめて斯いふ男が又有らうかかういふ女が又有らうかとたがひ恍惚みとれ茫然ばうぜん霎時しばし言葉もあらざりしが稍々やう/\にして兩個ふたり心附こゝろづいてははづか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)