悪霊あくりょう)” の例文
旧字:惡靈
泰文は悪霊あくりょう民部卿という通名とおりなで知られた忠文ただぶみの孫で、弁官、内蔵頭を経て大蔵卿に任ぜられ、安元二年、従三位に進んで中納言になった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女の子が生まれると、彼らはそれを、風や雑草の悪霊あくりょうから保護して育てて、大きくなるのを待ってコロンボの町へ売りに出た。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いて説明を附けようとすれば、ドストエフスキイの悪霊あくりょうの主人公であるところのスタブローギンのある行動の話を持ち出さねばなるまい。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そういう場合に、気をしずめたり、あるいは悪霊あくりょうを追いはらうためにただ一つ力の源になるのは、讃美歌をうたうことだった。
つまりナオミは天地の間に充満して、私を取り巻き、私を苦しめ、私のうめきを聞きながら、それを笑って眺めている悪霊あくりょうのようなものでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それだけのさいなんで、いのちびろいをしたと思えば、あきらめがつく。もう、これでおまえのからだから、悪霊あくりょうがきえさったのじゃから、安心あんしんするがよい。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
久次郎どのには怪しい獣の悪霊あくりょうが付きまとっているので、それをはらうために毎夜秘密の祈祷を行なっていることは、おふくろ殿もかねて御存じの筈である。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
むしろ、何か悪霊あくりょうにでも取りかれているようなすさまじさを、人々は緘黙かんもくせる彼の風貌ふうぼうの中に見て取った。夜眠る時間をも惜しんで彼は仕事をつづけた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
へんだ、へんだと思っていたんだけど……やっぱりあの男はわるい魔法まほうをつかうんだわ。おっかさんのだいからのだいじな家具かぐに、悪霊あくりょうをふきこんだんだわ。
後にはかえってこれを魔神悪霊あくりょうの如く、解する者が少しずつ出来たということが一つである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「おう、そこか。いまに痛みはとまるぞ。そこに悪霊あくりょうがすんでいるのじゃ。いまわが神力でもって、その悪霊をおい出してやる。こっちをむいて、わしの手を見ているがいい」
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鉱山こうざん悪霊あくりょうなんというのはばかな話だ」とかれは最後さいごに言った。「鉱山に洪水こうずいが来ている。それはたしかだ。だがその洪水がどうして起こったかここにいてはわからない……」
神路山へ鷹を放って小鳥の肉をあぶったりして、大いに武威をうたっているうちに気が変になったという男の話があるが——今夜の裸男に、その悪霊あくりょうり移ったのではあるまいか。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この一人は、実在の人物、そしていま一人の方は、悪霊あくりょうなのでございます。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
井伊の陣屋のさわがしいことはおのずから徳川家康とくがわいえやすの耳にもはいらないわけにはかなかった。のみならず直孝は家康にえっし、古千屋に直之なおゆき悪霊あくりょうの乗り移ったために誰も皆恐れていることを話した。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おい、悪霊あくりょう。君は何がいるのだ。1730
夜、やみの中を跳梁ちょうりょうするリル、そのめすのリリツ、疫病えきびょうをふりくナムタル、死者の霊エティンム、誘拐者ゆうかいしゃラバスなど、数知れぬ悪霊あくりょう共がアッシリヤの空にち満ちている。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お坊さんは、法師のようすがあまりへんなので、これはすこしあやしい、もしかしたら悪霊あくりょうにでもとりつかれたのかもしれない、と思って、それ以上いじょうは、ききただそうとしませんでした。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「鉱山の悪霊あくりょうふくしゅうをしたのだ」と一人がさけんだ。
すべての悪霊あくりょう