息杖いきづえ)” の例文
それは、箱根へ湯治にいったとき、駕籠舁かごかきから息杖いきづえを買って帰り、その杖に諸家から題詩を貰って彫りつけ柱に掛けて自慢していた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
脱ぎ捨てた雪駄を、ぽんとちりを払って中に突っ込んだ駕籠舁——肩を入れて、息杖いきづえをぽんとついて、掛声と一緒に小刻みで走り出す。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……ぴたぴたとるうちに、草臥くたびれるから、稽古けいこの時になまけるのに、催促をされない稽古棒を持出して、息杖いきづえにつくのだそうで。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ポンと肩を入れる息杖いきづえ、同時に、七、八名の侍は各〻袂から黒布を出して覆面し、太刀の鍔下を握って、駕の前後に四人ずつ分れてく。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人足は提灯を持ったり、息杖いきづえをかかえたり、煙草を喫んだりして、居たり立ったりしていました。これらの連中がそこへ暫く待っていると、家の中から
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
原文はらぶん三島安みしまやすという東海道喰い詰めの奴で、息杖いきづえを取って打って掛ったが、打たれるような人じゃア有りません、真影流の奥儀おくぎきわめた小三郎なれば
筋骨たくましい六尺近いかごきが十人、ガッシと腰をおとして足並みゆたかに、踊りのように息杖いきづえをふるって、あっというまにあさくさばしを渡り過ぎたのだが!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それ惣蒐そうがかりにて叩き倒せと手に/\息杖いきづえを振り上打てかゝるに半四郎も酒屋の軒下のきしたにありし縁臺えんだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それくらいのことは心得た後棒の若い者、息杖いきづえを取って花嫁の駕籠の前に立塞たちふさがりましたが、相手はその出鼻をくじくように、横合から飛出して、胸のあたりをドンと突きました。
それから雲助の息杖いきづえというものがある、あれの使用法などは研究してみたらだいぶおもしろそうなものであるが、今日では芝居か映画のほかには山中へ行かなければ容易に見られないものになった。
ステッキ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
銀太が息杖いきづえを持って出て来るようすであってみれば、ぴんとした言は断念したわけだろう、とりあえず泥溝板どぶいたを踏み鳴らして逃げていった。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
湯本ゆもと立場たてばに着くと、もう先触さきぶれが通っているので、肩継人足が二十人近く、息杖いきづえをそろえて待ちかまえている。それへ
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それくらいのことは心得た後棒の若い者、息杖いきづえを取って花嫁の駕籠の前に立塞たちふさがりましたが、相手はその出鼻をくじくように、横合から飛出して、胸のあたりをドンと突きました。
息杖いきづえがおどる。掛け声は勇む。往来の人はうしろへ、うしろへと流れてゆく。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
驚いて逃げ足をした駕籠舁かごかきも、兵馬の手並に心強く、息杖いきづえふるって加勢するくらいになったから、悪者どもは命からがら逃げ出し、或いは橋の下の河原へ落ちて、這々ほうほうていで逃げ散ってしまいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて駕屋を呼び立てると、その侍は、にわかにどこかへ向って息杖いきづえを急がせた——一挺の駕にはお千絵様の体をそのまま乗せ、後の駕には自身が乗って——
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふり返ってみると、馬子や駕籠舁きが七八人、なかには息杖いきづえや棒などを持って、こっちへ追いかけて来た。かれらはいまの出来ごとを見て、ずうたいは大きいが人間はへぼだ、と思ったらしい。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
磯五が往来そとまでいっしょに出て、お駒ちゃんを駕籠へ乗せた。駕籠は、もう呼ばれて来て、ふたりの駕籠かきが、息杖いきづえを突いて待っていた。久助が格子こうしをあけたまま、小腰をかがめて見送っていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
駕籠屋は息杖いきづえをはなさず、馬方は手頃の棒を持っていました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ね起きた駕籠屋は、途端に又、息杖いきづえを立てた。柵の内で、関所役人の跫音がして来る。気がつくと、湖水のほとりは、いつのまにか白々と朝凪あさなぎをたてている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い助という人足もとびあがり、息杖いきづえを取って身構えた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ってたかってなぐりつける、息杖いきづえ足蹴あしげの下に、いつか神気朦朧しんきもうろうとして空も見えなくなってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——見るに、くるわくるわ、どれもこれも一くせありげな道中人足どうちゅうにんそく錆刀さびがたな息杖いきづえを持ちこんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)