心付こころづ)” の例文
はたと、これに空想の前途ゆくてさえぎられて、驚いて心付こころづくと、赤楝蛇やまかがしのあとを過ぎて、はたを織る婦人おんな小家こいえも通り越していたのであった。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余は寒さにたえずして余の生命を焼けるなり、かく心付こころづくとともに、余はあわててその火を消さんとせしが、この火を消さば、余はただちに凍えて死なん
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
その時に私は大に心付こころづきました、成程なるほど露西亜ロシア欧羅巴ヨーロッパの中で一種風俗のかわった国だとうが、ソレに違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
八重その頃はいえの妻となり朝餉あさげ夕餉ゆうげの仕度はおろか、いささかのいとまあればわが心付こころづかざるうちに机のちりを払ひすずりを清め筆を洗ひ、あるいは蘭の鉢物はちものの虫を取り、あるいは古書の綴糸とじいとの切れしをつくろふなど
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
言ううちに胸が迫って、涙をたたえたためばかりでない。ふと、心付こころづくと消えたように女の姿が見えないのは、草が深くなった所為せいであった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一、人の世を渡るはなお舟にのって海を渡るがごとし。舟中の人もとより舟と共に運動をともにすといえども、ややもすればみずから運動の遅速ちそく方向に心付こころづかざること多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
二の烏 御同然ごどうぜんに夜食前よ。俺も一先いっさき心付こころづいては居るが、其の人間は食頃くいごろには成らぬと思ふ。念のために、つらを見ろ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
時に、はじめてフト自分のほかに、烏の姿ありて立てるに心付こころづく。されどおのが目をあやし風情ふぜい。少しづゝ、あちこち歩行あるく。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
野原に遊んで居る小児こどもなどが怪しい姿を見て、騒いで悪いと云ふお心付こころづきから、四阿あずまやへお呼び入れに成りました。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それが自分を呼ぶのだとは、急に心付こころづきそうもない、恍惚うっとりとした形であった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思わず口へ出したが、言い直した、余り唐突だしぬけ心付こころづいて
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)