かん)” の例文
それはもう何ともかんともいえない秘めやかな高貴な芳香が、歯の根を一本一本にめぐりめぐって、ほのかにほのかに呼吸されて来る。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一緒にいる時分は、ほんのちょいとした可笑おかしいことでも、くやしいことでも即座にちまけて何とかかんとか言って貰わねば気が済まなかったものだ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
連れて行って、見せてやってくれないか。僕は今日行くと、なんかんだで一週間ばかりは、とても帰られそうもないんだから。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
全体大食をなさる方は物の味が解らんので何でもかんでも沢山おなかへ詰め込めばいいという風ですからいわゆる暴食なのです。大食のお方は必ず暴食です。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「慾ですよ、絹子さん。そんな好い御器量に生みつけて戴いて、なんだのかんだのと不足を仰有ると罰が当りますよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それがね、妾のは何も年頃の娘が、何でもかんでも可笑しがるといふあれとは何だか違ふやうに思はれて……」
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
傳「いやア何うも、なんともかんとも、おめえにも逢いたかったが、れから行端ゆきはがねえので」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『其は、お前が、腕もありもしない癖に、妙に私にたてつくぢやないか。だから、私が、もう少し辛抱おつて言つてるのに、お前がなんでもかんでも一本立でやつて見せますつてんで……。』
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
なんかんか言ってますよ。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
一軒のあるじじゃアないか、うして姉弟きょうだいで堅くしてアやって、温和おとなしくして居る堅人かたじんだよ、伯父さんも村方でなんとかかんとか云われる人で失礼ではないか、お前さんを主人の様に
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とお歌さんが言った、通というのは、毎日のように此界隈を歩く狂人きちがいの乞食で、茶碗の断片かけらでも下駄の棄てたのでも、何でもかんでも手当り次第に拾って懐へ入れる。其れが病気なのだそうだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ストーリーの深刻さをあらわした……実にソノ何ともかんとも……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「どうもそう何でもかんでも引っ張り出されちゃ困るね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小兼が若衆頭わかしゅあたま裁附たっつけとやらいうものを穿いて、金棒曳かなぼうひきになって、肌を脱いで、襦袢の袖が幾つも重なって、其の美しいこと何ともかんともいえなかった、愚僧わしは其の時ぞっこん惚込んだが