山人やまびと)” の例文
平安朝になりましては、もはや山人やまびとをわざわざ京都まで呼ぶの手数を省いて、左右の衛士えじが山人の代になって、この儀式をやっております。
『この処に山人やまびと草寮こやあり。兵卒数人火を囲みて聖涙酒をめり。こは遊覧の客をまもりて賊を防ぐものなりとぞ』
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
これによると名詞の一が「山住みの人、山人やまびと」。二が「登山者」。別に「山に登る」なる自動詞があげてある。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
もっとも地方によっその名をことにするようで、日本でも奥羽地方では山人やまびとと云い、関東地方では山男と云い、九州地方では山𤢖やまわろと云い、ここらでも主に𤢖と呼ぶようです。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのさま新に此熔巖の海に涌出せる孤島の如し。されど其草木は只だ丈低き灌木のまばらに生ぜるを見るのみ。この處に山人やまびと草寮こやあり。兵卒數人火を圍みて聖涙酒を呑めり。
粗野なる山人やまびと都に上れば、心奪はれ思ひ亂れて、あたりをみつゝ言葉なし 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この村の夏の景色の美しさはこの山人やまびとも自ら他に誇って居るように清くして美しい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
童らはひとしく立ちあがりて沖のかたをうちまもりぬ。げに相模湾さがみわんへだてて、一点二点の火、鬼火おにびかと怪しまるるばかり、明滅し、動揺せり。これまさしく伊豆の山人やまびと、野火を放ちしなり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
三月十一日紙上に番外百中十首(まつ山人やまびと投)として掲げある歌を、われらが変名にて掲げ候やの御尋ね有之候へども、右はことごとく『柿園詠草しえんえいそう』中にある歌にてわれらの歌とは全く異りをり候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いかにも山人やまびとらしい風貌ふうぼうをそなえ、すぎの葉の長くたれ下がったような白いあらひげをたくわえ、その広い額や円味まるみのある肉厚にくあつな鼻から光った目まで、言って見れば顔の道具の大きい異相の人物であるが
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山人やまびと雪沓ゆきぐつはいて杖ついて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
山人やまびと驕奢おごり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
これは後に申す山人やまびとと合せ考うべきものかもしれませぬが、近ごろでは普通に新聞などに「山窩さんか」と書いております。穴住まいをするという事かもしれません。
あしひきのやまきしかば山人やまびとわれしめしやまづとぞこれ 〔巻二十・四二九三〕 元正天皇
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
飛騨の山人やまびと打寄うちよって、この国特有のふごを作ることを案じ出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山人やまびとの垣根づたひや桜狩
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
これは有名な国栖くすの奏などと併せ考うべきもので、国栖くすもやはり吉野山中の一種の山人やまびとでありました。
山人やまびとの伝説は各地に伝えられている。それについてはかつて柳田國男君の精細な研究が発表せられた事があり、自分もかつて鬼筋に関連して民族と歴史の誌上で説明した事があった。
「ケット」と「マット」 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
所謂山人やまびとの一種で、里人さとびととは大分様子の違ったものであったらしい。応神天皇の十九年に吉野離宮に行幸のあった時、彼ら来朝して醴酒を献じた。日本紀には正に「来朝」という文字を使っている。
国栖の名義 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)