尻込しりご)” の例文
「いや、もう沢山、もう沢山」長造は、そのお面みたいなものを、弦三が本気でかぶせそうな様子を見てとって、尻込しりごみしたのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「は!」といったものの尻込しりごみをした。答えそこなって、以後注意、落第だよ。出世しまい! などといわれるのがこわかったからだ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
尻込しりごみして、通禧を推した。通禧だけが西洋人の顔を見ているというわけで。彼なら西洋人の意気込みも知っているだろうからというわけで。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「さあ。おあがり。さあ。」と私は、この久し振りの周さんの来訪に胸を躍らせ、玄関に飛んで出て歓迎したが、周さんは、へんに尻込しりごみして
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「虫でがすかい! ウィル旦那。——あの黄金虫でがすかい!」とその黒人は恐ろしがって尻込しりごみしながら叫んだ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
どっちみちろくなことはあるまいと恐れをいだいていただけに「聴いてやろう」と云われるとかえって尻込しりごみをした。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三毛は毒虫にでもさわられたかのように、驚いて尻込しりごみする。それを追いすがって行ってはまた片足を上げる。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし三味線ときくと皆が尻込しりごみをするので、適当な実験助手が得られなくてそのままになっていた。
おうむ返しにいって、向うの土手にゴロついていた者が、いっせいに起き上がって来たから、宅助は尻込しりごみして、あとの言葉を忘れ、ただ目ばかりをしばたたいている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……なあ、そうではないか?……まあ、今度は俺は局外者だから、あまりこんなことは云いたくないが、……とにかく、なんだよ、貴様のは、それは単純なる弱気だ。卑怯ひきょう尻込しりごみだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
ハステラーは相手を説き伏せることができないと、少なくとも相手を恐怖におとしいれるのだ、という印象をKは受けたが、彼が人差指を立てるだけで多くの人々は尻込しりごみするのだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
正太顔を赤くして、何だお六づらや、喜い公、何処が好い者かと釣りらんぷの下を少し居退ゐのきて、壁際かべぎわの方へと尻込しりごみをすれば、それでは美登利さんが好いのであらう、さう極めて御座んすの
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と脈もらぬさきから尻込しりごみするには心細い思いがした。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
女は尻込しりごみして、ニヤニヤ笑いながら、かぶりを振った。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼等かれらまぶしさに尻込しりごみばかりしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そういうことは、彼等がよく知っているから、自然尻込しりごみをしてサ、実際現れる飛行機はそのまた三分の一で、二百機サ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
岩瀬肥後はそれを成した人だ。最初の米国領事ハリスが来航して、いよいよ和親貿易の交渉を始めようとした時、幕府の有司はみな尻込しりごみして、一人として背負しょって立とうとするものがない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お六さんのつきか、いさんの清元きよもとか、まあれをえ、とはれて、正太しようたかほあかくして、なんだお六づらや、こう何處どこものかとりらんぷのしたすこ居退ゐのきて、壁際かべぎははうへと尻込しりごみをすれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
僕は不安になったが、ここで尻込しりごみしていたのではしょうがないから、思い切って腰を曲げると、はね橋のようにはねあがったゆかをくぐって、地下への階段をふんだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
入口ががたりと開いて、どやどやと一隊の人が雪崩なだれこんだ。その先登には、妻君の横にいた美男子がいたが、乃公の顔をみると、ぎょっと尻込しりごみをして、大勢の後に隠れた。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
番人は尻込しりごみをした。その結果、どうしても私が行かねばならなくなった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学生上りが、いらいらとうながすのを、臆病おくびょうそうに老人が尻込しりごみした。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きかされても、尻込しりごみをしませんよ。国家へ忠誠をちかいます
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見物人は顔色をかえて、後へ尻込しりごみをするのだった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
松永はおどろいて尻込しりごみをした。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)