小躍こおど)” の例文
狂える神が小躍こおどりして「血をすすれ」と云うを合図に、ぺらぺらと吐くほのおの舌は暗き大地を照らして咽喉のどを越す血潮のき返る音が聞えた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あられだ、霰が降って来た。」と大きな声でいって、喜んで小躍こおどりした。而して、直様すぐさま戸外に駆け出して、霰だ。霰だ。といって走っていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
農夫は、ここに至って始めて氏の妙計を覚り、小躍こおどりして出て行ったが、やがて満面に笑をたたえて、ポケットも重げに二百磅の金を携え帰った。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
この時、天井の一角が、けたたましい音をして急に破れたと思うと、そこからピグミーの足が二本ブラ下がり、早くもお浜の前に飛び下りて小躍こおどりし
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かりにメフィストフェレスが出現して、今一度青春を与えようと約束しても、僕はファウストのように小躍こおどりして、即座にびつくか否かは疑問である。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
飲食の喜び、たぐいない幸福、敬虔けいけんな感激、喜悦の小躍こおどり! 快い温かさと、その日の疲れと、親しい声の響きとに、身体はうっとりと筋がゆるんでくる。
わらびが半身を現わしていた,われわれはこれを見ると,そらそこにも! おお大層に! ほらここにも! なんとまア! などとしきりに叫びながら小躍こおどりを
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
小躍こおどりするような音を夜更けた札幌の板屋根は反響したが、その音のけたたましさにも似ず、寂寞せきばくは深まった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やがて、日がたってから、家のものが変な顔をして、味噌汁を吸うのを、彼女は小躍こおどりしてよろこんだ。
心の中に小躍こおどりしながら、そこの廻り角のところでどっちに行くであろうかと、ほかに人通りのない寂しい裏町なのでこちらの板塀いたべいかげにそっと身を忍ばせて、待っていると
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
貴様はさだめし俺の死んだことを小躍こおどりして喜んでいるだろうな。そして、ヤレヤレこれで安心だと、さぞのうのうした気でいるだろうな。ところが、どっこいそうは行かぬぞ。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それを聞くと、二郎次は小躍こおどりして喜びまして、早速奉公したいと申しました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
瞬くに売切れ、そこで、イワンはまた小躍こおどりして、飛ぶようにうしろを見せた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
私はわけも分からずに母の腕のなかで小躍こおどりしていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
曲者くせもの見つけた!」というような気合で、米友が小躍こおどりしてみたのですが、その見つけられた怪しい者は、米友が動いたほどには動きませんでしたけれども、それでも
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また時には、意趣返しに、大音楽家の曲調を自分のだと偽って、たちの悪い悪戯いたずらをやることもあった。そしてゴットフリートがたまたまそれをけなすと、彼は小躍こおどりして喜んだ。
それには、抱えぬしのひどく忌むようなことが書いてあった。それまであるじからかたきのように遠ざけられていた三野村は好い物を握ったと小躍こおどりして悦び、早速それを持って往って
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ああ、もう都もすぐだぞ。」と、一郎次は小躍こおどりして喜びました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今まで半信半疑とはいうものの、疑いの方が先に立つもどかしさが一時にとれてしまったので、その包を受取ると、もう足が小躍こおどりして、じっとしていられない思いです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と兵馬は小躍こおどりしつつ、みぎわの砂地を踏み締めて、人やあるとあたりを見渡すと、漁師の老人が一人、かいを手にして、とぼとぼと歩んで来る、それをこの柱の下で待受けて問を発しました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宗旨しゅうしは曹洞、かなりの大きなお寺でございます……そこに、一件のお喋りの盲法師が逗留していることを突留めましたものですから、もうこっちのものだと小躍こおどりをして、早速お寺を尋ねましてな
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
米友は小躍こおどりして屋根の瓦の上を走りました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)