寝衣姿ねまきすがた)” の例文
お君はその時に身のうちに寒気さむけを感じて、いつのまにか、恥かしい寝衣姿ねまきすがたで、奥庭の池のほとりに立っている自分を見出しました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はい。お世話さま。」と返事をしたが、細帯もしめぬ寝衣姿ねまきすがたに女の立ちかねる様子を見て、男はふすまに手をかけながら
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「まあ大変おそく——。」婆さんの家で浅井のもとから知っていたその細君は、寝衣姿ねまきすがたで出て来て門を開けた。そこにお増が笑いながら立っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この七月以来、殆ど、病間から外へ一歩も出た事のない太守が、不意に、白絹の寝衣姿ねまきすがたきっと起たせたと思うと
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孝「そういたしますると、廊下を通る寝衣姿ねまきすがたたしかに源次郎と思い、繰出す槍先あやまたず、脇腹深く突き込みましたところ間違って主人を突いたのでございます」
私は一二歩思はず身をけた。そしてそこに寝衣姿ねまきすがたの伯母を見た。私は首を垂れて立ちすくんだ。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
五十ばかりの女は寝衣姿ねまきすがたのしどけなく、真鍮しんちゅう手燭てしょくかざして、覚めやらぬ眼をみひらかんとおもてひそめつつ、よたよたと縁を伝いて来たりぬ。死骸しがいに近づきて、それとも知らず
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
阿母かあさんに度々起されて、しどけない寝衣姿ねまきすがたで、はぎの露わになるのも気にせず、眠そうなかおをしてふらふらと部屋を出て来て、指の先で無理に眼を押開け、まぶちの裏を赤く反して見せて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お銀は肉づいた足にべたつくような蚊を、平手でたたきながら、寝衣姿ねまきすがたで蒲団のうえにいつまでも起き上っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつぞやのように打掛うちかけこそ着ていないけれども、寝衣姿ねまきすがたのままで、手には妻紫つまむらさき扇子せんすを携えて、それで拍子を取って何か小音に口ずさんで歩いて行くと
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
細帯しどけなき寝衣姿ねまきすがたの女が、懐紙かいしを口にくわえて、例のなまめかしい立膝たてひざながらに手水鉢の柄杓から水を汲んで手先を洗っていると、そのそばに置いた寝屋ねや雪洞ぼんぼりの光は
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……今で言えば肺病でござりますが、其の頃は癆症ろうしょうと申しました、寝衣姿ねまきすがたで、扱帯しごきを乳のあたりまで固く締めて、縁先まで立出たちいでました途端、プーッと吹込む一陣の風に誘われて
母親はわが子を励ますつもりで寒そうな寝衣姿ねまきすがたのままながら、いつも長吉よりは早く起きて暖い朝飯あさめしをばちゃんと用意して置く。長吉はその親切をすまないと感じながら何分なにぶんにも眠くてならぬ。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ですけど、私だって、そう気長に構えてもいられませんからね。」と寝衣姿ねまきすがたのまま自分の枕頭まくらもと蹲跪つくばって、煙管をポンポン敲いた。「あの人の体だって、出て来てからどうなるか解りゃしない。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
抜足ぬきあしをして廊下を忍び来る者は、寝衣姿ねまきすがたなれば、たしかに源次郎に相違ないと、孝助は首を差延さしのべ様子を窺うに、行灯あんどうの明りがぼんやりと障子に映るのみにて薄暗く、はっきりそれとは見分けられねど
立っているのは寝衣姿ねまきすがたの女らしい。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母親はわが子をはげますつもりで寒さうな寝衣姿ねまきすがたのまゝながら、いつも長吉ちやうきちよりは早く起きてあたゝか朝飯あさめしをばちやんと用意して置く。長吉ちやうきちの親切をすまないと感じながら何分なにぶんにも眠くてならぬ。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)