寝巻ねまき)” の例文
旧字:寢卷
と、とっさに感じとると同時に、ただちに源十郎指揮をくだして、一同寝巻ねまきの裾をからげ、おのおの大刀をぶちこんでそっと庭におり立った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから起き上って、夜具のすそに掛けてあった不断着を、寝巻ねまきの上へ羽織はおったなり、床の間の洋灯を取り上げた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつの間にか僕の寝巻ねまきははぎとられていた。まっ裸だ。これにはおどろき、かつあきれてしまい、その場に座り直した。そしてあたりをぐるぐると見まわした。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白髪まじりの四方髪そうがみである。年ばえは六十あまり、絹の寝巻ねまきに、白小袖を下に着ている。懐中ふところあらためてみると、肌神守はだまもりとして観音像と地蔵尊の二体が出て来た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はだけた寝巻ねまきからのぞいている胸も手術の跡がみにくくぼみ、女の胸ではなかった。ふと眼をらすと、寺田はもう上向けた注射器の底をして、液をき上げていた。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
良人をつと仏蘭西フランス語でドクトル近江あふみの住所は何処どこかと尋ねて居ると、その時偶然隣の扉をけて黄八丈の日本寝巻ねまきまゝ石鹸シヤボンの箱と手拭とをながら現れた人は近江さんであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私はすぐ寝巻ねまきの上から外套をひっかけて、すぐ外へとびだした。夢の中をうろついているような気持である。数時間前、妻から聞いたきんの猫の話が、私の頭の中によみがえってきた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
とにかくみんな寝巻ねまきをぬいで、下に降りて、口をすすいだり顔を洗ったりしました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いそいで、寝巻ねまきをジャンパーに着かえ、夜具を押し入れにしまいこむと、ぞんぶんに窓をあけた。風はなかったが、そとの空気が、針先はりさきをそろえたように、顔いっぱいにつきささった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いくら忠告してもこの人がたった一つよこさないものはフランス製の西洋寝巻ねまきだ。洋行からわたし達がかえるとき巴里パリに置いて来たこどもがわかれしなに父のこの人に買ってれた寝巻だ。
愛よ愛 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さて、その真夜中、お花の寝息を伺って、これなら大丈夫と思ったか、宗三むっくり起上って、寝巻ねまきの前をかき合せると、ソロリソロリと寝間の外へ忍び出した。行先は云うまでもなく納戸だ。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
戸締とじまりをして夫のあとから入ってきたお延は寝巻ねまきの上へ平生着ふだんぎの羽織を引っかけたままそこへぺたりと坐った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
後でタクマ少年から聞いたところによると、博士は僕の盗難を大学の人からの急報によって知り、ベッドをすべりると寝巻ねまきのまま大学へ駆けつけ、それから捜査に移ったそうである。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝巻ねまきの下に重ねた長襦袢ながじゅばんの色が、薄い羅紗製らしゃせい上靴スリッパーつっかけた素足すあしの甲をおおっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寝巻ねまきの上にも木の影が揺れながら落ちた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)