寝入ねい)” の例文
旧字:寢入
こう思って糟谷かすやはまたつまや子の寝姿ねすがたを見やった。なにかおもいものでしっかりおさえていられるようにつまや子どもは寝入ねいっている。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
夜明け方にちょっと目をさまして、頭をもたげ、感きわまってあたりをぐるぐる見回したが——それなりまた寝入ねいってしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
独楽をッぺたにしつけたまま、馬糧まぐさのなかにやがてグウグウ寝入ねいりこんでしまったかれこそは、まことに、たわいのないものではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねむくなってきましたので、ケーはついに我慢がまんがしきれなくなって、そこのへいのへんたおれたまま、前後ぜんごわすれてたかいいびきをかいて寝入ねいってしまいました。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宵子よいこはうとうと寝入ねいった人のように眼を半分閉じて口を半分けたまま千代子のひざの上に支えられた。千代子は平手でその背中を二三度たたいたが、何の効目ききめもなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんなやつは後々のために早くほろぼしてしまわなければいけない。志毘しびは今ごろはつかれて寝入ねいっているにちがいない。門には番人もいまい、おそうのは今だとお二人でご決心になりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
三百遍と際限もなく繰り返しているうちに早や夏の夜の明けやすくあたりが白み初めて来て師匠もいつかくたびれたのであろう寝入ねいってしまったようであるそれでも「よし」と云ってくれないうちはと「のろま」の特色を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
子どもはすぐ寝入ねいってしまいました。
二郎じろうは、るときもきゅうりのことをおもっていました。しかし、とこはいるとじきに寝入ねいってしまいました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まだどうもならないさ」と宗助は答えたが、十分ばかりののち夫婦ともすやすや寝入ねいった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸作こうさくは、せんべいでつくった小判こばんをねずみにわれてはつまらないとおもって、それをだなのなかにしまって、またこたつにはいって、いつしかグーグーと寝入ねいってしまいました。
金銀小判 (新字新仮名) / 小川未明(著)
本当に、こわいもんですね。元はあんな寝入ねいったじゃなかったが——どうもはしゃぎ過ぎるくらい活溌かっぱつでしたからね。それが二三年見ないうちに、まるで別の人みたようにけちまって。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何も知らないさいは次のへやで無邪気にすやすや寝入ねいっています。私が筆をると、一字一かくができあがりつつペンの先で鳴っています。私はむしろ落ち付いた気分で紙に向っているのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕はもとより行くつもりでも何でもなかったのだから、この変化は僕に取って少し意外の感があった。気楽そうに見える叔父はそのうち大きな鼾声いびきをかき始めた。吾一もすやすや寝入ねいった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)