子煩悩こぼんのう)” の例文
旧字:子煩惱
誠に可愛いもので、私は一体子煩悩こぼんのうで自分が子を可愛がると言うよりは子供から愛せられるというような点も余程あるようです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
子無しゆえに、一そう子煩悩こぼんのうらしい内儀が、手をさしのべて抱き取ると、赤子は、夢を破られて、むずかって、おぎゃおぎゃ泣き出すのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「けれど、こうして、私が旅に出ている間も、痩せるほど子の心配ばかりしている、至って子煩悩こぼんのうな母ですから」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
糟谷かすやはきょうにかぎって、それがうるさくてたまらないけれど、子煩悩こぼんのうな自分が、毎朝かならず出勤しゅっきんのまえに、こうして子どもを寵愛ちょうあいしてきたのであるから
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
妻を愛称して『小サイ可愛イママサマ』と呼んでるヘルンは、同時にいかにまた子煩悩こぼんのうであったかがわかる。
「彼はたいへんな子煩悩こぼんのうでしてね」と高品さんが云った、「帰って来てそれを聞くと、いっぺんに気がぬけたようになって、半月ばかりぼんやりしていました」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひどく子煩悩こぼんのうほうだものですから、あのピアノのことなんか申しますと、もうとても生きてはいないだろうと気落きおちをしてしまいまして、まるで病人の様になって
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お勢の生立おいたちの有様、生来しょうらい子煩悩こぼんのうの孫兵衛を父に持ち、他人には薄情でも我子には眼の無いお政を母に持ッた事ゆえ、幼少の折より挿頭かざしの花、きぬの裏の玉といつくしまれ
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
子煩悩こぼんのうなお父さんには子供の病気が何よりもつらい。誰か一人寝ていると食慾が衰えるのでも分る。社から電話をかけて、熱の加減を問い合せる。帰宅も早くなる。玄関へ入ると直ぐに
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また実際、二十幾つになる息子に迎えもよこしかねない、子煩悩こぼんのうな親なのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
金作は界隈でも評判の子煩悩こぼんのうであったが、山芋を土間に投げ出して、いつも子供を寝かしておく表の神棚の下まで来ると、そこいらをキョロキョロと見まわしながら、大きな声で怒鳴った。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主人の治兵衛じへえは五十を越したばかりですが、子煩悩こぼんのう因業いんごうで有名な男で、平次と八五郎を虫ケラみたいに見下しておりましたが、人殺しの疑いが娘のお糸の方へ向いていることに気が付くと
今は妾もいなみがたくて、ついに別居の策を講ぜしに、かの子煩悩こぼんのうなる性は愛児と分れ住む事のつらければ、折しも妾の再び懐胎せるを幸い、病身の長男哲郎を連れ帰りて、母に代りて介抱せん
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
やはりこのおさな子供こどもびかける言葉ことばしたしいものにかぎられていた。もともと金之助きんのすけさんを袖子そでこいえへ、はじめていてせたのは下女げじょのおはつで、おはつ子煩悩こぼんのうときたら、袖子そでこおとらなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あわれな男爵だんしゃくの境遇は、なんと痛ましいものであったろう。子煩悩こぼんのうな父親として、また偉大なるカッツェンエレンボーゲン家の一員として、なんと胸の張りさけるような苦しい立場であったろう。
金蔵の親爺の金六と女房のお民とは非常な子煩悩こぼんのうでありました。
第二海竜丸の木山船長は子煩悩こぼんのうなくせに子供がない。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「彼はたいへんな子煩悩こぼんのうでしてね」と高品さんが云った、「帰って来てそれを聞くと、いっぺんに気がぬけたようになって、半月ばかりぼんやりしていました」
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんなふうに、重盛ばかりでなく、宗盛の所行でも、維盛これもりの落度でも、悪いことは皆、入道のせいになって、時には耳へも聞えて来たろうが、入道は、子煩悩こぼんのうな上に、総じて骨肉の者には甘いので
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)