わか)” の例文
そして、お雪や正太しょうたの細君なぞに比べると、もっとずっとわかい芽が、最早もう彼の周囲まわりに頭を持ち上げて来たことを、めずらしく思った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし水際に始めて昨日、今日のわかい命を托して、娑婆しゃばの風に薄い顔をさらすうちは銭のごとく細かである。色も全く青いとは云えぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふつうのあけびの芽だちの茎とわかき葉とを採り、ゆでてひたし物とし食用にする。これを蒸し乾かしお茶にして飲用する。
アケビ (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ういういしいわか葉もろとも、おのおのしたくしてあった、色鮮かに、意匠もとりどりの、しかし揃ってあでやかな花冠をかざし列ね、お日様をしたって
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
日蔭の窪地にはまだ雪が残っていた。えだした雑草が路をふさいでいた。わかい木の葉は浅黄色に陽を透していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
黄のった、明るみのあるわかい緑で、霧のしずくにプラチナのように光った裏葉を翻えしている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「わしが伊丹城の獄中におったとき、あの藤蔓の這っておる高い窓の外から、わしの名を呼んだ者は、そなたではなかったのか、——夏の初め、まだ藤蔓のわかいころだった」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羽前うぜん米沢よねざわあたりはタンポポに近い花の名が別にあって、わかい葉を食料にする場合ばかり、クジナという語を用いるのである。越後でもグズナは野菜としての蒲公英の名であった。
それでもあの崖はほんたうのわかい緑や、灰いろの芽や、かばの木の青やずゐぶん立派だ。佐藤箴さとうかんがとなりに並んで歩いてるな。桜羽場さくらはばが又凝灰岩を拾ったな。ほほがまっ赤で髪もあかいその小さな子供。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
草嫩堪茵 くさわかしとねあつるに
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この蓮根のこの細長い部は余りに痩せて居るので食用とするには足らぬのでありますが、しかしそのわかき部を食すればその味がすこぶる宜しい。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
雪国では野菜がわかく柔かくて、今でも副食用として採取せられる山の青物が多い。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それでもあの崖はほんとうのわかみどりや、はいいろのや、かばの木の青やずいぶん立派りっぱだ。佐藤箴さとうかんがとなりにならんで歩いてるな。桜羽場さくらはばがまた凝灰岩ぎょうかいがんひろったな。ほおがまっかみあかいその小さな子供こども
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さてこの荑は元来ツバナ(チガヤすなわち白茅のわかい花穂である。チバナというのが本来の名ですなわち茅花の意である)
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
支那の書物の『救荒本草』には、飢饉の時に際してはそのわかき苗葉を採りゆでて水に浸してその苦味を淘浄し油塩に調えて食する事が書いてある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そしてその苗が群集して一処にたくさん生えわかすえを揃えている場合は各株緑葉の中心中心が赤く、紅緑相雑わって映帯し圃中に美観を呈している。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それがなお極くわかい蕾のときは蕾をもった幼嫩ようどんな梢が日に向かって多少傾くことがないでもないが、これは他の植物にも見られる普通の向日現象で、なにもヒマワリに限ったことではない。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)