妖魔ようま)” の例文
早くも、高いとんがり帽子ぼうしをかぶった小さい小人の妖魔ようましげみの中からのぞいているのが、はっきり見えるような気がするのです。
白い尻尾しっぽが左右に動いているのが見える。私が近づくと彼女は妖魔ようまの如く、音もなく高く飛び上って、また次のしげみへ隠れて私を待つ。
この大御神を知らねばこそ、方々はかくも信心の誠を尽して、阿弥陀如来なんぞと申す妖魔ようまたぐいを事々しく、供養せらるるげに思われた。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
名人の内に宿る射道の神が主人公のねむっている間に体内をけ出し、妖魔ようまはらうべく徹宵てっしょう守護しゅごに当っているのだという。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
妖魔ようまの眼のように窅然ようぜんと奥のかた灰暗ほのぐらさをたたえている其中に、主客の座を分って安らかに対座している二人がある。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
(月雲にかくる)あゝ信頼のぶよりの怨霊よ。成親なりちかの怨霊よ。わしにつけ。わしにつけ。地獄じごくに住む悪鬼あっきよ。陰府よみに住む羅刹らせつよ。湿地しっちに住むありとあらゆる妖魔ようまよ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
今夜こそ、もし何かあったら、それこそ彼は全身の勇をふるって、西風に乗ってくる妖魔ようまと闘うつもりだった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たちまち妖魔ようま怪物のごとく飛び出でて、彼を囲めり、今は驚く気力も消え、重傷を負いたる人のごとく重き歩みをきずりつつ、交路つじに立てる石仏の前を横ぎり、秋草茂れる塚を過ぎ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
彼は眼に見えぬ妖魔ようまを払いのけるように、ブルンと一つ身震みぶるいして立ち上がった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その一つは夫人、もう一つは当時の下婢かひの顔を写したものだそうである。前者の口からかたかなで「ケタケタ」という妖魔ようまの笑い声が飛び出した形に書き添えてあるのが特別の興味を引く。
一心に念仏致をり候処、突然彼方かなたより女の泣声聞え来り候あいだ弥〻いよいよ妖魔ようま仕業しわざなるべしと、その場にうづくまり、歯の根も合はずふるへをり候に、やがて男の声も聞え、人の跫音あしおと次第に近づき来るにぞ
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けだし弓は昔時せきじにあつては神聖なる武器にして、戦場に用ゐらるるは言ふまでもなく、蟇目ひきめなどとて妖魔ようまはらふの儀式もある位なれば、金気きんき粛殺しゅくさつたるに取り合せておのずから無限の趣味を生ずるを見る。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あるところに、ひとりのわるいこびとの妖魔ようまがいました。それは妖魔の中でも、いちばんわるいほうのひとりでした。つまり、「悪魔」です。
見るからに、妖魔ようまんでいそうな古い煉瓦建れんがだての鬼仏洞の入口についたのが、四時十五分過ぎであった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
予はその怪しげなものを妖魔ようまじゃと思う。されば天上皇帝は、堕獄のごうを負わせられた姫君を憐れと見そなわして、予に教化きょうげを施せと霊夢を賜ったのに相違ない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妖魔ようまはその第一の犠牲者を完全にほふり去ったのであろうか。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)