ひと)” の例文
其処に唯一人、あのひとが立ったんです。こうがいがキラキラすると、脊の嫋娜すらりとした、裾の色のくれないを、潮が見る見る消して青くします。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前に囲ってくれた旦那と二人して妨害運動をしたりしたが、律気な——鉢植えのけやきみたいな生れつきのひとにも芽が出て、だんだんに繁昌はんじょうして来た。
何事かといぶかりつつも行きて見れば、同志ら今や酒宴しゅえんなかばにて、しゃくせるひとのいとなまめかしうそうどき立ちたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「ほんまに好い芸妓げいこさんになりゃはりましたでっしゃろ。このひとにも、好きな人がひとりあるのっせ」と、軽くからかうようにいうと、若奴は優しい顔に笑窪えくぼを見せてはずかしそうにしながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
何もな、何も知らんのえ、あて路之助はんのは、あんたはん、ようお馴染なじみの——源太はん、帯がゆるむ——いわはったひとどすの。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現夫人は、紅葉館のひとだということである。丸顔なヒステリーだというほかは知らない。おなじ紅葉館の舞妓まいこで、さかえいみじい女は博文館はくぶんかん主大橋新太郎氏夫人須磨子さんであろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あんたはん、このひとを知っといやすやろ」という。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ですけれども、うその時、あのひと呼吸いきは絶えていたのです——あの日は、小雪さんは、大変にお酒を飲んでいたんですってね、茶碗で飲んで、杯洗はいせんまであけたんだそうですね。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
達者たっしゃに書いた。長編小説でもなんでも書いた。選挙運動には銀座の街頭にたって、短冊たんざくを書いて売った。家庭には荒くれた男の人たちも多くいるし、廃娼はいしょうしたいひとたちも飛込んできた。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
瓢亭ひょうていだの、西石垣さいせきのちもとだのと、このひとが案内をしてくれたのに対しても、山谷さんや浜町はまちょう、しかるべき料理屋へ、晩のご飯という懐中ふところはその時分なし、今もなし、は、は、は、笑ったって
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いいえの色なんです。——あの時あのひと——は緋の長襦袢を着ていました。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)