執念深しゅうねんぶか)” の例文
それから橋を渡り、暗い公園を脱け、この山下町やましたちょうりこんで来ても、この執念深しゅうねんぶかい尾行者たちは一向退散の模様がないのである。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな、しつこい、毒悪な、ねちねちした、執念深しゅうねんぶかい奴は大嫌だ。たとい天下の美猫びみょうといえどもご免蒙る。いわんや松脂まつやににおいてをやだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金蔵に弱らせられているのは、お豊ばかりではなく、伯父夫婦も、あの執念深しゅうねんぶかい馬鹿息子には困り切っているのであります。
なんでも執念深しゅうねんぶか皇子おうじだといいますから、おひめさまは、はやくこのまちからって、あちらのとおしまへおげになったほうが、よろしゅうございましょう。
赤い姫と黒い皇子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と云うのは河に落ちた彼が、ねずみのようになったまま、向うの汀へ這い上ったと思うと、執念深しゅうねんぶかくもう一度その幅の広い流れの上を飛び越えようとしたからであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
へびのごとく執念深しゅうねんぶかいやつだから、いつどんなところから飛びだして暴行を加えるかもしれない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
何というみにく一途いちず執念深しゅうねんぶかさだろう。そして、何という落ちつきはらった我ままな要求だろう。愛情の対象として完全に自分を無視しておきながら、道江は一たいどんな返事を
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
……えりにえってういう因縁つきの娘さんを貰うことは考えものと存申候。死霊しりょう執念深しゅうねんぶかきものにて候。河原姓から河原姓へ嫁したのでは全く同姓ゆえ、矢張り堪忍致さぬことゝ存申候。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「だから云って御覧なさいよ。哲学者なんてものは、よくごまかすもので、何を聞いても知らないと白状の出来ない執念深しゅうねんぶかい人間だから、……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このあいだにかえるは、えんしたはいろうとしました。しかしへびは執念深しゅうねんぶかがすまいとしました。
少年の日二景 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ああ、どこまで執念深しゅうねんぶかい男であろうとお豊は身慄みぶるいを止めることができません。
しかし女というものはとにかく執念深しゅうねんぶかいものですね。二十何年もその事を胸の中に畳込んでおくんですからね。全くのところあなたは好い功徳くどくをなすった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんという執念深しゅうねんぶかあねだろうと、いもうとは、そのときふるえあがらずにはいられませんでした。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あれがまたこの宿へ入り込みましたよ、執念深しゅうねんぶかいやつらったら」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おれはおれでどうかするという気概も起して見た。けれども根が執念深しゅうねんぶかくない性質たちだから、これしきの事で須永に対する反抗心などが永く続きようはずがなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひと灰色はいいろ着物きものあねは、どうかしてみんなを、一はわざわいのすなみずびさせて、くるしめてやらなければならないといって、執念深しゅうねんぶかく、いまだによるひるくろすなをまき
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あなたまだ、あの事を聞くつもりだったの、あなたも随分執念深しゅうねんぶかいのね」と御米が云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細君は「早く御飲おのみになったらいでしょう」とせまる。早く飲んで早く出掛けなくては義理が悪い。思い切って飲んでしまおうとまた茶碗を唇へつけるとまたゲーが執念深しゅうねんぶかく妨害をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)