土気色つちけいろ)” の例文
旧字:土氣色
顔色は土気色つちけいろに沈んでいるのに、眼だけは火がついたようにギラギラと光り、瀬戸の古丼を突きだしながらうわずったような声で
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何とも云えぬ恐怖の表情、土気色つちけいろの顔、鼻の頭に浮んだ玉の油汗、子供等は嘗つて、この様に恐ろしい父親の顔を見たことがなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
するするけ出してせるだに、手許てもとあかるくなって、みんなの顔が土気色つちけいろになって見えてよ、が白うなったのに、かじにくいついた、えてものめ、まだ退かねえだ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はもともと血色のすぐれない顔つきをしているのだが、最近は特に色つやが悪くて土気色つちけいろをしている。階段を上り下りする時にしばしばよろけることがある。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
話しているうちに神主かんぬし長谷川右近はせがわうこんの顔が、発作的ほっさてきな病気でもおこしたように、ワナワナとくちびるをふるわせて、まったく土気色つちけいろになってしまった。——ときゅうをたって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は土気色つちけいろで瘠せた顔に顎だけ角ばっているのへ咬筋の動きを見せながら懸命に叩いています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そう叫ぶと裕佐はまっさおになり、土気色つちけいろになり、そしてふらふらと倒れそうになった。
六尺近い背丈せいを少し前こごみにして、営養の悪い土気色つちけいろの顔が真直に肩の上に乗っていた。当惑した野獣のようで、同時に何所どこ奸譎わるがしこい大きな眼が太い眉の下でぎろぎろと光っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と云われて源次郎頬がやりとしたに不図ふと目をさまし、と見れば飯島が元結はじけてちらし髪で、眼は血走り、顔色は土気色つちけいろになり、血のしたたる手槍をピタリッと付け立っている有様を見るより
回向えこう引導いんどうも型の如くにり行ったが、和尚の顔色は益〻ますますすぐれず、土気色つちけいろのむくみを表わし、眉間みけんの憂悶は隠しもあえず、全身衰微の色深く、歩く足にも力失せがちな有様がただならなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
源十郎、土気色つちけいろの微笑を突如与吉へふり向けた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ソフト帽が脱げて、長い黒髪が乱れ、土気色つちけいろになった女の唇から顎にかけて、一筋二筋、赤い毛糸のような血が流れていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
庭の明りがさし込んで来るので、土気色つちけいろをした先生の顔にも、さすがに一脈の春の光が反射している。
蘿洞先生 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
武松は片膝折りに、すぐ彼女の鳩尾みぞおちの辺を踏まえてしまった。そして右手に、床の短剣を取って持ち直し、こんどは、王婆の土気色つちけいろになった顔をその白刃の先で指して言った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
濡れた髪を額に貼りつかせ、土気色つちけいろになった頬のあたりからしずくをたらしているところなどは、いま湖水からあがってきた、大池の亡霊とでもいうような、一種、非現実的なようすをしていた。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
枕をはづして土気色つちけいろほお蒲団ふとんうずめた。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
身体はせてしまい、顔は肺病やみの様に土気色つちけいろで、目ばかりギョロギョロさせている。もっと平常ふだんから顔色のいい方じゃあござんせんでしたがね。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土気色つちけいろに、たるんでいる七つの首が、びくとしたように、彼の方を向いた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)