たとえ)” の例文
絹糸のたとえは何とも知らず面白かったが、御仕合せですと云われて見ると、うれしいよりもかえっておかしい心持の方が敬太郎を動かした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
居升の上書の後二十余年、太祖崩じて建文帝立ちたもうに及び、居升の言、不幸にしてしるしありて、漢の七国のたとえのあたりの事となれるぞ是非無き。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
面白いたとえである。自分等も書斎に立籠って居るときは一かどの見識もあり覚悟もあるようであるが、一寸外へ出ると以前とはがらりと違った気分になる。
音楽のたとえを設けていわば、あたかも現代の完備した大風琴を以って、古代聖楽を奏するにも比すべく、また言葉を易えていわば、昔名高かった麗人のおもかげ
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
何にしても、才人才に亡ぶのたとえにもれず、楊修の死は、楊修の才がなした禍いであったことに間違いはない。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっともこれはたとえの言葉であるから、他の例をとれば十貫のものを使ってただちに二十貫の力を得るというごとき、つきせぬ河の流れの水を引くごとき例をとって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
果してこの戯言は同氏をして『蕪村句集』を得せしめ、余らまたこれを借りおおいに発明する所ありたり。死馬の骨を五百金に買ひたるたとえも思ひ出されてをかしかりき。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いやしくも吾が区々の悃誠こんせいを諒し給わば、幕吏必ず吾が説をとせんと志を立てたれども、蚊虻ぶんぼう山を負うのたとえついに事をなすことあたわず今日に至る。また吾が徳の非薄ひはくなるによればなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人には添うて見よ 馬には乗って見よというたとえもありますがその人はなかなかの学者自慢で自分は非常な学者のように思って居る。実際大分の学者ではありましたが仏教の要領は少しも知らない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
類は友を以てあつまるのたとえ
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
と主人の代理に迷亭の悪口をきいていると、うわさをすれば陰のたとえれず迷亭先生例のごとく勝手口から飄然ひょうぜん春風しゅんぷうに乗じて舞い込んで来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
はたしてこの戯言は同氏をして蕪村句集を得せしめ、余らまたこれを借りて大いに発明するところありたり。死馬の骨を五百金に買いたるたとえも思い出されておかしかりき。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ありの穴からというたとえもある。拙者が追いかけて」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ考えているのか下手へたの考と云うたとえもあるのにとうしろからのぞき込んで見ると、机の上でいやにぴかぴかと光ったものがある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雁字といふのは雁の群れて列をなして居る処を文字にたとへたのであつてと支那で言ひ出しそれが日本の文学にも伝はつて和歌にてかりといふ題にはしばしばこの字のたとえみこんであるのを見る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「大変怒ってるね。なあに、そりゃ、ほんの冗談じょうだんだろうがね、そのくらいにせんと金は溜らんと云うたとえさ。君のようにそう真面目に解釈しちゃ困る」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
となかなか承知しないから、仕方なしに、またまでらしてついて行った。たださえ暗いあなの中だから、思い切ったたとえを云えば、頭から暗闇くらやみに濡れてると形容しても差支さしつかえない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いても立ってもと云うのはたとえだが、そのいても立ってもを、実際に経験したのはこの時である。だから坐るとも立つともかたのつかない運動をして、中途半端にまぎらかしていた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)