喨々りょうりょう)” の例文
心の奥で思いながら、宋江は楼台を上ってさらに深い所の殿前でんぜんにぬかずいていた。どこやらに聞える仙楽せんがく喨々りょうりょうと世の常ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尺八の扇遊(立花家)が喨々りょうりょうと吹く都々逸に、初秋の夜の明るい寄席で涙をこぼした頃は、あたしもまだ若い、二十一、二の恋の日だった。
随筆 寄席風俗 (新字新仮名) / 正岡容(著)
成吉思汗ジンギスカンの白馬が者勒瑪ジェルメに引かれて来る。成吉思汗ジンギスカンは無造作に飛び乗る。喨々りょうりょうたる喇叭の音起る。舞台全面の軍勢、勇み立つ。
平一郎は自分ながら伸びた背丈や、張りきった肉付や、はっと気づくと恐ろしく大きな喨々りょうりょうたる声音で話している自分の声や、高潮する熱情に驚いた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
その境に臨むと、山から谷、穴の中のありまでが耳を澄ます、微妙な天楽であるごとく、喨々りょうりょうとして調べかなでる。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
喨々りょうりょうたる国歌が吹奏されたのである。
ロンドン一九二九年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
喨々りょうりょう、鳴りわたる喇叭らっぱ、全山木々にいたるまで、どよめき、狂喜、喊呼かんこ。——そして鎮台中、生命いのちあるものすべて、声をあげて泣かぬはなかった。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心の内で、「まずかった。」「あら、口笛のがするよ。」と綾子は耳をそばたてたり、戸外そとにて喨々りょうりょうと二声三声、犬は疾風のごとく駈出だして、「変だ。」と思うまに見えずなりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪明りのまま夜の跫音あしおとがしんしんと迫った。すると、突然、どこかで喇叭らっぱの音が、喨々りょうりょうとたかく響いた。正しい規律のもとに吹かれる音階だった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喨々りょうりょうたる奏楽は満堂の酔をしてさらに色に誘った。母公はふと、玄徳のうしろに屹立きつりつしている武将に眼をそそいで
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笛のが、大川いっぱいに、ひろがった。満々とながれる川波と、喨々りょうりょうと真昼の秋を澄んでゆく笛の音と。——聴く人も、吹く人も、ふさわしかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喨々りょうりょうたる奏楽がわきあがった。奥の閣からは二夫人が楚々たる蓮歩れんぽを運んで出迎える。服装こそ雑多なれ、ここの山兵もきょうはみな綺羅きらびやかだった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
笛は喨々りょうりょうとうむことなく、樺の林をさまよっている。やがて、そこに人かげがうごいた。見ればひとりの美少女である。長くたれた黒髪くろかみに、らんの花をさしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喨々りょうりょうとして水のせせらぐに似た尺八の哀韻、それは二人の数奇さっきを物語るかのように、呂々転々の諧調を極まりなくして、心なき詰侍つめざむらいの者さえなみだぐましい気持に誘われた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、はしゃいだほうの者も、笑った後をやや白けて、冷えた盃のふちめていると、すぐ近くから、喨々りょうりょう、水のせせらぎに似た尺八の音階が、一座の耳へ流れてくる——。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主客、席につくと、喨々りょうりょう得勝楽とくしょうがくという軍楽が奏された。周瑜は起って、幕下の人々へむかい
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちょうどもちの木坂の下あたりから喨々りょうりょうと夜を澄ましてくる一節切ひとよぎりのあることが分った。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
合図の狼煙のろしはその前にここから揚がっていたものとみえ、喨々りょうりょうたる螺声らせい、金鼓の音は、すでに孔明の三軍が近づきつつあることを告げ、それを知るや禿龍洞とくりょうどうの大兵も、先を争って
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喨々りょうりょうと、淙々そうそうと、むせぶ限りを咽んで、とどまるところを知らないもののようである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喨々りょうりょう、哀々、陣葬の角笛やかねは、三日にわたって、冬空の雲をかしめていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はや森々しんしんたる華岳の参道を踏み登っていたのである。奏楽が起る。喨々りょうりょうと笛の音、金鈴きんれいのひびき。そして身は仙境を思わせるこうのけむりと一山の僧衆がしゅくと、整列するなかをすすんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風のかげんか、喨々りょうりょうと澄んで高く聞こえてくるかと思うと、ぎれて、消えなんとし、消えたかと思えばまた、嫋々じょうじょうたる呂律りょりつが川波にのって流れ、そしてだんだんに近づいて来るのであった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
喨々りょうりょうたる奏楽裡、玄徳は国主の代理として、館中の主座に着席した。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時、遙かな母屋の方から、喨々りょうりょうと玉をまろばすような笛の調べ!
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)