厭々いやいや)” の例文
健三は厭々いやいやながら同じ答を繰り返すより外に仕方がなかった。しかしそれが何故なぜだか彼らを喜こばした。彼らは顔を見合せて笑った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
厭々いやいやであったが、持物といっては金属性の球だけをポケットにして、饒舌おしゃべりなAや気難きむずかし屋なBと共々打ち連れて、先ず都をして旅にのぼった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
といって、それをもめて了っては、早速さっそく其日の暮しにも困るので、厭々いやいやながら、いつまでも下積み三文文士の生活を続けて行く外はないのでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると彼は厭々いやいやながら言われたとおりの身振りをした。しかしだれの方をも見ず、眼を伏せ、やはり顔をそむけていた。彼は悲しかった。苦しんでいた。
しかし、結局私には、寝室の歓楽よりも同志の制裁の方が怖ろしかったのです。それで、厭々いやいや出掛けましたよ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と、「厭々いやいややっているようだな。」その人の咎める声がした。そしてその人は足早に私のとこへきた。私はべそをかいた、幾分ふてくされた感じだったのだ。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
これらは厭々いやいや素読を教はつたばかりだが、何百度と読まされたので、文句には今なほ微かに其頃の記憶が残り、『実語経』だけは粗ぼ意味も解してゐたと思ふ。
日本の言葉で云うと、もっと短かい名前だったようだけど……え?……その遊びの仕方を云ってみろって?……厭々いやいや。……それは妾わざっと話さないでおくわ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
で、筆者が、通った旨を答えると、更に三人は娘が厭々いやいや引張られて行きはしなかったかとたずねた。
今川家へのお気遣いで、わたくしを厭々いやいやながら妻としておでなさるのでございましょうが
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやだよいやだよお放しよ、なんてきたないんだろう、お前の手は。あぶらだらけで、ネチネチして、ひるだわ、蛭だわ、まるで、蛭だわ! 厭々いやいや! すいつこうッてのね。いよいよ蛭だわ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
食べるのも飲むのも、彼女はまるで厭々いやいややっているような様子だった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
何の事は無い政宗は厭々いやいやながら逐立おいたてられた形だ。政宗は忌々いまいましかったろうが理詰めに押されて居るので仕方が無い、何様どうしようも無い。氏郷は理に乗って押して居るのである。グングンと押した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
親父の顔で厭々いやいやながら多勢の子分どもを預っておりますが、七十を過ぎた親父の源太郎に万一の事があれば、惜し気もなく縄張を人にやって、堅気の商売をするだろう——と世間では言っております。
欽吾の財産を欽吾の方から無理に藤尾に譲るのを、厭々いやいやながら受取った顔つきに、文明の手前をつくろわねばならぬ。そこで謎がける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして彼はいつも、しまいには演奏しなければならなかった——厭々いやいやながらではあったが。そして演奏のあとでは、うまくひけなかったことを夜通し苦にした。
私は貴方あなたから送って下さった校正刷五百八十ページを今日ようやく読みおわりました。漸くというと厭々いやいや読んだように聞こえるかも知れませんが、決してそんな訳ではないのです。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は生活のために厭々いやいやながら出稽古でげいこをし、そのかたわら、筆を執った。その作品は大気のうちに花咲く望みがなくて、色せてき、空想的な非現実的なものとなっていった。
仕方がなかったので、クリストフはかなり厭々いやいやながらピアノについた。彼はこう考えていた。
厭々いやいやながらつながれてる芝居のことについては、彼女も自分の考えを述べてきかした。
またちょっと眼を見開き、小さな溜息をもらし、そして厭々いやいやながら聞くことにした。
子供はただぼんやりと父親の教えを聞くようになり始めた。きびしく叱りつけられると、厭々いやいやながらやりつづけた。叱責しっせきはすぐにやってきた。彼は最も底意地悪い機嫌きげんをそれに対抗さした。