卑近ひきん)” の例文
卑近ひきんな実例を上げるならば、彼は幼少の頃、女中の手をわずらわさないで、自分でとこを上げたりすると、その時分まだ生きていた祖母が
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
準備をととのえていさえすればいかに卑近ひきんな教えでも、いかに些末さまつな忠告でも、必ずこれを受け取って発芽はつがして、花咲かせて実るものと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
『らんぷや御難ごなん』は「ひらけゆく電気」に書いたもの。これは卑近ひきんな生活の中に、科学を織りこんだもので、これまた一つの型だと思っている。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一つの教室に属するいくつかの実験室には、指導者の風格などという高尚こうしょうな話は別として、卑近ひきんな実験技術の知識がいつの間にか集積して来るものである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
すなはもつと高遠かうゑんなるは神話しんわとなり、もつと卑近ひきんなるはお伽噺とぎばなしとなり、一ぱん學術がくじゆつとく歴史上れきしじやうおいても、またぱん生活上せいくわつじやうおいても、じつ微妙びめうなる關係くわんけいいうしてるのである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
著者ちよしや少年諸君しようねんしよくんむかつて、地震學ぢしんがくすゝんだ知識ちしき紹介しようかいしようとするものでない。またたとひ卑近ひきん部分ぶぶんでも、震災防止しんさいぼうし目的もくてき直接ちよくせつ關係かんけいのないものまでろんじようとするのでもない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
芸術家が起らぬ。しかしてすべての事が段々卑近ひきんになって来る。思想界に一度病が起ると、文学でも画でも甚だ卑猥なるものが流行して来る。政治もまた同様で、政治家が段々堕落する。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
卑近ひきんな例を挙げてみれば、彼は米琉よねりゅうの新しい揃いの着物を着ていても、帽子はというと何年か前の古物をかぶって、平然として、いわゆる作家風々として歩き廻っているといった次第なのである。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
もし文芸院がより多く卑近ひきんなる目的を以て、文芸の産出家に対して、個々別々の便宜を、その作物さくぶつ上の評価に応じて、零細れいさいにかつ随時に与えようとするならば、余はその効果の比較的少きに反して
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青年はみな理想をもっているが、卑近ひきんな小さなことにまで翻訳して始めて理想の理想たるところが現れ、かつまた高くなり強くなるものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まずその卑近ひきんなる快楽主義と、大それたる利己一天張りに陥るというが如きは見逃すべからざる弊だ。支那の官人には奉公の赤誠が尠ない。彼等はただ単に自己一身の栄誉聞達ぶんたつを欲している。
ごく卑近ひきんな一例を上げると、賊の往復の足跡の図だ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)