冥府よみ)” の例文
絵の下段にはアーチ型に、男性と女性とが腕を伸ばして手を握り合ひ、女性は赤児のクリストを抱き男女の下のは日月星辰と冥府よみの国とがある
ばらしたぞといったことは、むしろ父がまだ生きている実証のようにさえ思えて、冥府よみのような冷たい闇へ飛びこむと一緒に
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こゝは処も桂川」、最前の起句を再用して、「造化の筆はいまもなほ、悲惨の景色うつしいで、我はた冥府よみの人なりき」
テームスは彼らにとっての三途さんずの川でこの門は冥府よみに通ずる入口であった。彼らは涙のなみに揺られてこの洞窟どうくつのごとく薄暗きアーチの下までぎつけられる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つい今しがたまで雨を恋しがって居た乾き切った真夏まなつあえぎは何処へ往ったか。唯十分か十五分の中に、大地は恐ろしい雨雲の下に閉じこめられて、冷たいくら冥府よみになった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
太陽は見透す瞳を八方に向けてレミンカイネンが冥府よみの中に黒く流れる河底に白骨となって横わっているのを照し出してやりました。母は悲しみましたけれど、決して諦めません。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
どうも冥府よみから響いて人を取って食いそうな声だ。
はや冥府よみくに、血に染めし
哀音 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
つめたき冥府よみ水底みなそこ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まッ暗な冥府よみの底に落ちて、もがき嘆いているような亡霊が自分のように感じられた。彼は、両手で顔をおおった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い車は包む夜を押し分けて、やらじとさかう風を打つ。追い懸くる冥府よみの神を、力ある尾にたたいて、ようやくに抜け出でたる暁の国の青くけぶる向うが一面にり上がって来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くらき冥府よみまでも
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
自然に引き付けられたればとがも恐れず、世をはばかりのせき一重ひとえあなたへ越せば、生涯のつきはあるべしと念じたるに、引き寄せたる磁石は火打石と化して、吸われし鉄は無限の空裏を冥府よみつる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くらき冥府よみまで
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
眠りながら冥府よみに連れて行かれるのは、死ぬ覚悟をせぬうちに、だまし打ちに惜しき一命をはたすと同様である。どうせ殺すものなら、とてものがれぬ定業じょうごうと得心もさせ、断念もして、念仏をとなえたい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
冥府よみの色より物凄し。
鬼哭寺の一夜 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)