かたへ)” の例文
にぎり向ふをきつと見詰たる手先にさは箸箱はしばこをばつかみながらに忌々いま/\しいと怒りの餘り打氣うつきもなくかたへ茫然ぼんやりすわりゐて獨言をば聞ゐたる和吉の天窓あたま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その城壘じやうるゐたりしと寺觀たりしとを知らず。今の街道はその廣間を貫きて通ぜり。かたへなる細徑を下れば、小房の蜂窠ほうくわの如きありて、常春藤きづた石長生はこねさうとは其壁を掩ひ盡せり。
かたへには一人、の老婆の身を縮めて「剛様、今夜は又たときは寒う御座んすから何卒どうぞ、御気を着け遊ばしてネ——貴郎あなたが行つて下ださるので、如何程どんなに安心で御座いませう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何日もの如く三歳みつつになる女の児の帯に一条ひとすぢの紐を結び、其一端を自身の足に繋いで、危い処へやらぬ様にし、切炉きりろかたへに寝そべつて居たのが、今時計の音に真昼の夢を覚されたのであらう。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わがかたへ遠く去るとも人のまた告げしならねど
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
女兒むすめやさしき介抱にこゝろゆるみし武左衞門まくらつきてすや/\と眠りし容子にお光は長息といき夜具打掛てそつ退のきかたへに在し硯箱を出して墨を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
りしが甲夜よりして枕に着たるゆゑなるか夜半の鐘に不斗ふとを覺し見ればかたへにお光のをらぬにさて雪隱せついんへでも行きたるかと思うてやほら寢返ねがへりなし煙草たばこのまんと枕元を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)