伊吹山いぶきやま)” の例文
そして伊吹山いぶきやまの背や、美濃みのの連山を去来するその黒い迷雲から時々、サアーッと四里四方にもわたる白雨が激戦の跡を洗ってゆく。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くお天氣てんきには、とほ近江あふみくに伊吹山いぶきやままで、かすかにえることがあると、祖父おぢいさんがとうさんにはなしてれたこともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
伊吹山いぶきやまから吹きおろす山風に送られて、朝妻あさづまの渡船も漕ぎ出したので、いつのまにかあしの間でまどろんでいた眠りをさまされ
冬季における伊吹山いぶきやま地方の気象状態を考える前には、まずこの地方の地勢を明らかにしておく必要がある。
伊吹山の句について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一気に繁昌はんじょうおもむいたが、もとよりあまねく病難貧苦を救うて現安後楽の願ひを成就じょうじゅせんとの宗旨しゅうしであれば、やがて江州ごうしゅう伊吹山いぶきやまに五十町四方の地をひらいて薬草園となし
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
まだ伊吹山いぶきやまに隠れているに違いないと云う者や、生れ故郷の石田村へ来たのを舊恩のある百姓がかくまっているのだと云う者や、いや、三成ほどの武士が何でおめ/\生きていようぞ
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
命はお行きがけにお約束をなすったとおり、美夜受媛みやずひめのおうちへおとまりになりました。そして草薙くさなぎ宝剣ほうけんひめにおあずけになって近江おうみ伊吹山いぶきやまの、山の神を征伐せいばつにおいでになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
汽車が濃尾のうび平野を横断して、伊吹山いぶきやまふもと迂廻うかいしながら、近江おうみ平野に這入っても、探偵も老翁も姿を見せない。前の男は平気でグウグウ寝ている。私はズキンズキン痛む頭を抱えてウトウトし出した。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
秀吉は馬を立てて、眉に迫る伊吹山いぶきやまを仰ぐ。さむらい達もみな手綱たづなをやすめ、各〻、汗ばんだ顔を山巒さんらんに吹かせていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大津の宿から五十四里の余も離れ、天気のよい日には遠くかすかに近江おうみ伊吹山いぶきやまの望まれる馬籠峠の上までやって来て、いかにあの関東方がホッと息をついて行ったかがわかる。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伊吹山いぶきやまのふもとに、薬園をもうけられ、西洋薬草を七、八十種も植えおかれておらるるが、何もそうまでせんでも
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お天気のいい日には遠くかすかに近江おうみ伊吹山いぶきやままで見えるといいます。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「やあ、いよいよここが都だな、ゆうべは伊吹山いぶきやまでさびしい思いをしたが、きょうはひとつ、クロにもらくをさせて、京都の町でブラブラ遊んでやろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天気のいい日には近江おうみ伊吹山いぶきやままでかすかに見えるということを私は幼年のころに自分の父からよく聞かされたものだが、かつてその父のふるい家から望んだ山々を今は自分の新しい家から望んだ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜明けとともに城を出て、伊吹山いぶきやまのほうへ駈けて行った。狩猟かりにということであったが、鷹も犬も連れていない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
琵琶湖びわこだの伊吹山いぶきやまだの東海道の松並木まつなみきなどがグルグル廻って見えてきて、いくらようとしても寝られればこそ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)