くだ)” の例文
その当時、わたしは十三、四歳であったが、一編の眼目とする牡丹燈籠の怪談のくだりを読んでも、さのみに怖いとも感じなかった。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
重四郎はこれさひはひと娘の部屋へやのぞき見れば折節をりふしお浪はたゞひと裁縫ぬひものをなし居たるにぞやがくだんのふみを取出しお浪のそでそついれ何喰なにくはかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、これから三角定木わ、くだんの鋏をば磨ぎ立てまして、もうこれならば大丈夫と、その日の暮れるのを、今か今かと待ちかまえておりました。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
一七一七年の聖書は、オックスフォードのクラレンドン版であるが、ロカ伝第二十の葡萄畑の寓話のくだりに、葡萄畑ヴィンヤードとあるべきところがヴィネガーとなっている。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
轢き逃げ自動車も悪いが、ボイロフの野郎も負惜みが強過ぎる、とこうだ。よってくだんの如し、ああ腹が減った
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こいつ一匹だけは鬚ぼうぼうの顎を頸飾くびかざりの中へすっこめて、しゃがんだまま、地面じべたにつきそうなくらい身を伏せて、そこからくだんの声を立てているのだが
その結果、つまり、偽善者、三宅木ベエ、というくだりを白状させて、ここへ乗りこんで来たわけですよ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
が、真黒な細い脚をあががまちへ投げ出したまま、勘弁勘次はもう「笠間右京暗夜白狐退治事あんやにびゃっこたいじること」のくだりを夢中になって読み耽っていて、藤吉親分の声も耳にははいらなかった。
先年、北海道への旅先で小熊に邂逅したくだりから、金田一博士の指導により、神を敬うアイヌの心境を探ねつつあるわが気持ちを語る条など、ひどく味わいのある話であった。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ところが、最後の開閉器スイッチひねったのは誰か——云い換えれば、最も重要な帰結点であるところの消燈のくだりになると、それに端なくも、法水は一道の光明を認め得たのであった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
第四幕の朝鮮王妃王子らが捕虜となるくだりは、朝鮮公使の抗議に遭い、半途よりその一幕を削りて、更に「義経腰越状」を加う。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は、世阿弥の『花伝書』に於て、大体次のような意味のくだりを読んだように記憶している。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ディカーニカを通つたくだんのザポロージェ人たちに違ひないのを見て、ほつと安心した。
しかし、次の算哲のくだりになると、まず誰しも思い過しとは思わないものが、実に異様な生気を帯びてくるのですよ。勿論、算哲が遺産の配分についてった処置は、明白な動機の一つです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一あって一の用をなさず、二にて初めて一の文言を綴る——つまり水のじょうと火のくだりと二枚の紙に別れておるのじゃが、それがじゃ、紙は二枚になっておっても、文句は両方につづいている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから三、四年の後に、「金色夜叉こんじきやしゃ」の塩原しおばら温泉のくだりが読売新聞紙上に掲げられた。それを読みながら、私はかんがえた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
樋口一葉ひぐちいちよう女史の「にごり江」のうちにも、源七げんしちの家の夏のゆう飯に、冷奴に紫蘇の香たかく盛り出すというくだりが書いてあって、その場の情景が浮き出していたように記憶している。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
将来の舅たるべき相川新五兵衛の屋敷へ駈け付けて訴えるくだりなど、その前半は今晩の山であるから面白いに相違ないが、後半の相川屋敷は単に筋を売るに過ぎないで余り面白くもない所である。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)