人伝ひとづ)” の例文
旧字:人傳
思いのたけを書き綴って、人伝ひとづてに送っても返事が来ず、到頭とうとうしまいには、多与里の姿を見ただけでもうるさそうに顔を反ける左京です。
彼は人伝ひとづてにこの事を聞いたとき、政治家の傍、あれだけの趣味人である老公が、舌に於て最後に到り付く食味はそんな簡単なものであるのか。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お人伝ひとづてには、ちと申し兼ねる大事です。相国しょうこく直々じきじきに、お会わせ下さるならば申しのべるし、さもなくば、このまま立ち戻る所存でござる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人伝ひとづてにては何分にも靴を隔ててかゆきを掻くのうらみに堪へぬからです、今日こんにちいたつては、しひて貴嬢の御承諾を得たいと云ふのが私の希望では御座いませぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
或温泉にゐる母から息子むすこ人伝ひとづてに届けたもの、——桜の、笹餅、土瓶どびんへ入れた河鹿かじかが十六匹、それから土瓶の蔓にむすびつけた走り書きの手紙が一本。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それで暇を取りましたが、看護婦にはなれないものですから、雑仕婦ぞうしふになって、あちこち転々している由を人伝ひとづてに聞いているだけで何年か立ちました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
読者のうちにはそういうことに気がついている人は多いであろうが、わざわざ著者に手紙をよこしたりあるいは人伝ひとづてに注意をしてくれる人は存外きわめて稀である。
随筆難 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
千之丞はかねて千倉屋の娘に懸想けそうしていて、町人とはいえ相当の家柄の娘であるから、仮親かりおやを作って自分の嫁に貰いたいというようなことを人伝ひとづてに申し込んで来たが
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人伝ひとづてに聞及びました所では、昨年の暮ちかく上皇様には、太政官だいじょうかんの図籍の類を諸寺に移させられましたよしでございますが、これも今では少々後の祭のような気もいたすことでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
大統領はうやうやしくたたずんでいる機密局長の顔をじっと見つめた。むろん顔見知りではあるが、直接口を利いたことは殆んどなかったので、人伝ひとづての噂以上に彼の人物を知っているとは云えなかった。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、幸いなことに、その老母は、秀吉の家臣で、近ごろ世に評判されているしずたけ七本槍の勇士の一名、脇坂甚内安治やすはるの家に預けられていると人伝ひとづてに聞いている。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫人は御丈夫そうに見受けられ、お子さんも大勢お持ちのようでしたが、暫く立った後に人伝ひとづてに聞きましたら、夫人も御主人と同じ病気でお亡くなりになったそうでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
人伝ひとづてに聞及びました所では、昨年の暮ちかく上皇様には、太政官だいじょうかんの図籍の類を諸寺に移させられましたよしでございますが、これも今では少々後の祭のやうな気もいたすことでございます。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
文飾などはいらぬ。また、わしが豊前へ下ることも、人伝ひとづてに聞きおろう。要は、腕をみがいて汝も豊前へ下れというまでのことだ。生涯でもこちらは待つ。自信を
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人伝ひとづてに聞きますと、山上は依然、荒涼として廃墟のままだそうですが、その後、横川の和尚亮信りょうしんや、宝幢院ほうとういん詮舜せんしゅんや、止観院しかんいん全宗ぜんそうや、また正覚院しょうかくいん豪盛ごうせいとか、日吉ひえ禰宜行丸ねぎぎょうがんなどの硯学せきがくたちが
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)