交渉こうしょう)” の例文
ツルとはその後、同じ村にいながら長いあいだ交渉こうしょうをたっていたが、私が中学を出たときおりがあって手紙のやりとりをし、あいびきもした。
花をうめる (新字新仮名) / 新美南吉(著)
花前はいろも動きはしない。もとより一ごんものをいうのでない。主人しゅじん細君さいくんとはなんらの交渉こうしょうもないふうで、つぎの黒白まだらの牛にかかった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
つまり釣と兄の性質とはぴたりと合ってその間に何の隙間もないのでしょうが、それはいわゆる兄の個性で、弟とはまるで交渉こうしょうがないのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次郎は、田沼先生が、二月二十六日の事変後に組織された内閣ないかくに入閣の交渉こうしょうをうけたのを、即座そくざ拒絶きょぜつした、という新聞記事を見たのをふと思いおこした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
人と森との原始的げんしてき交渉こうしょうで、自然しぜん順違じゅんい二面にめんが農民にあたえたながい間の印象いんしょうです。森が子供こどもらや農具のうぐをかくすたびに、みんなは「さがしに行くぞお」とさけび、森は「お」と答えました。
担任の主任教授は、復一を調法にして世間的関係の交渉こうしょうには多く彼を差向けた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
で、側臣でも裏面でこんな交渉こうしょうが行われていたとは誰も知らなかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしはいつもっていたことですが、滝田たきたさんは、徳富蘇峰とくとみそほう三宅雄二郎みやけゆうじろう諸氏しょしからずっとくだって僕等ぼくらよりもっととしわかひとにまで原稿げんこうつうじて交渉こうしょうがあって、色々いろいろ作家さっか逸話いつわっていられるので
夏目先生と滝田さん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おのずと会得することが出来た今まで肉体の交渉こうしょうはありながら師弟の差別にへだてられていた心と心とが始めてひしとい一つに流れて行くのを感じた少年の頃押入おしいれの中の暗黒世界で三味線の稽古を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長庵の交渉こうしょうで二梃の駕籠が仕立てられ、お妙が先に乗った様子だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さりとてまた、五十になるを人にたくして、とんと人と交渉こうしょうしえない、世にもあわれな人間とも思われる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
第三日目は人間的交渉こうしょうをさけて、ひたすら自然に親しもうという計画だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「なぜって君の精神と君の病気と交渉こうしょうのある間は、考えまいとて考えないわけにゆく者じゃない。」
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのように花前は、絶対ぜったいにほかに交渉こうしょうしえないけれど、周囲しゅういはしだいにその変人へんじんをのみこみ、変人になれて、石塊せっかい綿わたにつつんだごとく、無交渉むこうしょうなりに交渉こうしょうができている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)