中指なかざし)” の例文
「まあ、」と飛んだ顔をして、斜めに取って見透みすかした風情は、この夫人ひとえんなるだけ、中指なかざし鼈甲べっこうを、日影に透かした趣だったが
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小判紙を右の中指なかざしに巻きて襟のあたりを拭ひゐたるが、お吉は例のお世辞よく、煙草吸付けて先づ一ぷくと差出しつ。
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
髪の毛が枕紙まくらがみさわる。中指なかざしが落ちたような、畳に物の音、上になり下になり軟らかい寝息。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
片側川端の窓のあかりは、お悦の鼈甲べっこう中指なかざしをちらりと映しては、円髷まるまげを飛越して、川水に冷い不知火しらぬいを散らす。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おさえた袖がわなわなと震えるのは、どうも踊るような自分の手で。——覚悟をすると、おんなは耳も白澄しらすむばかり、髪も、櫛も、中指なかざしも、しんとするほどしずかです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見ると、藤紫に白茶の帯して、白綾しろあや衣紋えもんかさねた、黒髪のつややかなるに、鼈甲べっこう中指なかざしばかり、ずぶりと通した気高き簾中れんじゅう。立花は品位に打たれて思わずかしらが下ったのである。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車を彩る青葉の緑、鼈甲べっこう中指なかざしに影が透く艶やかな円髷まるまげで、誰にも似ない瓜核顔うりざねがお、気高くさっと乗出した処は、きりりとして、しかも優しく、なまめかず温柔おっとりして、河野一族第一の品。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帷幄ゐあくさんして、蝶貝蒔繪てふがひまきゑ中指なかざし艷々つや/\しい圓髷まるまげをさしせてさゝやいたはかりごとによれば——のほかにほ、さけさかなは、はしのさきで、ちびりと醤油しやうゆ鰹節かつをぶしへてもいゝ、料亭れうてい持出もちだし)
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)